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天使の分け前


イギリス/フランス/ベルギー/イタリア
2012年  101分

監督
ケン・ローチ

出演
ポール・ブラニガン
ジョン・ヘンショー
ゲイリー・メイトランド
ウィリアム・ルアン
シボーン・ライリー
ジャスミン・リギンズ

   Story
 『ケス』『麦の穂をゆらす風』のイギリスの名匠ケン・ローチ監督が、 スコッチ・ウイスキーの故郷スコットランドを舞台に綴るヒューマン・ドラマ。カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。

 スコットランド、グラスゴー。 喧嘩が絶えずまたもトラブルを起こしたロビー(ポール・ブラニガン)は、裁判所から刑務所送りの代わりに300時間の社会奉仕活動を命じられる。

 そこで出会った3人の仲間アルバート(ゲイリー・メイトランド)、ライノ(ウィリアム・ルアン)、モー(ジャスミン・リギンズ)と、 ロビーは指導員ハリー(ジョン・ヘンショー)からウイスキーの奥深さを教えられ、テイスティングの才能に目覚める。

 1樽100万ポンドもする高級ウイスキーのオークションが行われるのを知ったロビーは、恋人レオニー(シボーン・ライリー)と生まれて間もない子供のために、 人生の大逆転を図る・・・。


   Review
 ウィスキーはじっくり熟成する過程の中で、毎年2%ずつ樽から蒸発して目減りするそうだ。
 減ったウィスキーはどこへ行くのか? それは天使がちゃっかり頂戴する。それがタイトルの “天使の分け前” の由来らしい。
 『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』(09) ではワイン作りのノウハウを醸造家に伝授する天使が登場したっけ。 お酒の好きな天使か、いいなぁ〜。酔っ払った天使なんて想像しただけで嬉しくなる。

 ケン・ローチ監督といえばイギリス社会派の巨匠、けっこう重たい映画が多いけれど、『明日へのチケット』(05)、『エリックを探して』(09) などはほのぼの楽しかった。

 本作もその流れの一作。主人公たちは “天使の分け前” をめぐっていってみればちょっと良くないことをするんだけど、 まー、いいじゃない、うるさいことをいわなくても・・・、とかえって彼らを応援したくなる。


 そうそう、『明日へのチケット』に出ていたゲイリー・メイトランドとウィリアム・ルアンが全然違うイメージで出てくるのに驚いた。 とくにゲイリー・メイトランドったら分厚い眼鏡をかけて、下品な言葉を連発して (とてもここには書けません)、それでもなんだか愛嬌があって笑ってしまう。

 しかし特筆ものは主役のロビー役のポール・ブラニガンだ。演技はズブの素人だそうだけど、 なかなかどうして、ジョン・ヘンショーやロジャー・アラムなどのベテラン勢を相手に堂々たるものだ。
 身体は少年みたいに華奢で小さいけれど、表情や仕草にタフな成熟を感じさせて魅力がある。

 ロビーは親の代からのチンピラで、喧嘩沙汰が絶えず、妊娠中の恋人レオニーの臨月間近というのにまたも暴力事件を起こしてしまう。
 裁判では300時間の社会奉仕という温情判決が出たけれど、この次はもうない。ギリギリ崖っぷちに来ている。 「私一人でもいい子に育てる」ときっぱり宣言するレオニーのけな気さもあって、ロビーの更生にかける思いは半端ではない。

 社会奉仕の指導をするハリーが味があってじつにいい。
 彼の根底にあるのは、ロビーたち荒れる若者の生育環境や、まともになりたくても仕事がない、面接すら受けられない、部屋も貸してもらえない (=住む場所がない) という、 社会からはじき飛ばされた若者たちへの共感だ。
 それが、甘やかしはしないけれど、ユーモアとゆとりで若者たちを包む彼の温かさになっている。

 ハリーとの出会いでウィスキーのテイスティングの才能に目覚めたロビー。 1樽100万ポンド以上もする超高級ウイスキーのオークションがあることを知り、奉仕活動仲間とともにあることを目論む。

 それは天使の上前をはねて、2%分のウィスキーをこっそり頂戴してしまおうというのだ。

 みるからにチンピラの自分たちがオークション会場に入れるわけがない、それならキルトをつけて (せめて下だけでも) 正装っぽくみせたらどうか、から始まって、 この計画がなかなかスリリング、かつユーモラスで面白い。

 深夜、樽の貯蔵所に忍び込んで瓶4本分を盗み出し (1本分はほかの樽から移したりして、ロビーの芸の細かさに笑ってしまう。 当日、落札後、利き酒でバレるんじゃないかとちょっとハラハラしたりして・・・)、翌日に怪しげなウィスキー・コレクターにひそかに売り込み、 帰路では警察車に尋問され、切り抜けた直後に思わぬハプニングが起こり、・・・と息を抜く暇がない。

 そしてラスト、ハリーの家のテーブルに置かれた最後のひと瓶と添えられた手紙が何ともいい。「あいつら」といいながら嬉しそうに匂いをかぎ、ウィスキーを口に含むハリー。

 妻と子と大金と、その上、職も手に入れたロビーはもう道を踏み外すことはないだろう。“分け前” をはねられた天使もエールを送っているに違いない・・・よね。
  【◎△×】7

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