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父/パードレ・パドローネ


1977年  イタリア  113分

監督
ヴィットリオ・タヴィアーニ
パオロ・タヴィアーニ

出演
オメロ・アントヌッティ
サヴェリオ・マルコーネ
ファブリツィオ・フォルテ
マルチェッラ・ミケランジェリ

   Story
 第2次世界大戦後のイタリア南部サルデーニャ島を舞台に、父親の方針で学校に行かせてもらえず、 文盲の羊飼いの若者が言語学者になるまでを描いたカヴィーノ・レッダの自伝の映画化。

 父(オメロ・アントヌッティ)に小学校の教室から連れ出された6歳のカヴィーノ(ファブリツィオ・フォルテ)は、 一人前の羊飼いになるべく、人里離れた山小屋で20歳になるまで孤独な生活を強いられる。

 冷気の襲来で父のオリーヴ畑が全滅し、カヴィーノ(サヴェリオ・マルコーネ)はドイツに出稼ぎに行こうとするが、文盲のために申請書が書けず失敗する。

 軍隊に入ったカビーノは、文字を読む必要に迫られて、軍隊内の学校で教育を受ける。
 さまざまな知識を吸収し、友人の助けを借りて言語学に目覚めたカヴィーノは、除隊後、大学へ行こうと決意するが・・・。


   Review
 日本は昔から学問に対する尊敬や憧れが強いお国柄だ。江戸時代は寺子屋が普及して、庶民の識字率はかなり高かった。
 まして本作は第2次世界大戦後という、いはば「現代」の話だけに、ここに登場する父親の「(羊飼いの) 仕事を覚えるには学問はいらない」という頑固さに、 いまどき、まだそんな親が?!と驚いてしまう。

 このお父さん、棒を持って、息子の通う小学校に乗り込む。息子はそれだけで恐怖でオシッコを洩らす。
 大きくなった息子が、父親が手を上げただけでびくっとして頭を庇うシーンもあり、よほど日頃から厳しい体罰を加えているのかと思う。

 父親の厳しさは感情に任せたものでなく、一定の秩序があり、演じているのがオメロ・アントヌッティということもあって映画の印象はそれほど陰惨ではないけれど、 凄まじい父子関係だな、と思う。


 中盤、オリーヴの実の取引きで、買い手の息子が経済を学んでいて、小理屈を並べてうまく買い叩かれても、父親は「やっぱり学問が要る」とは思わないのだ。

 山中で羊番をしながら、たった一人で番小屋で暮らす主人公ガヴィーノが、はじめて “文明” (といっていいかもしれない) に触れるシーンが印象的だ。
 近くの村の祭りにいくために、芸人が2人、アコーディオンを弾きながら通りかかる。その音色がガヴィーノにはオーケストラの演奏ほどにも華麗に聞こえる。

 夢中になって後を追い、大切な羊2匹と交換してアコーディオンを手に入れる。はじめて父の価値観に逆らう行為をしたわけで、彼の中の自我の芽生えを感じさせる。
 もっとも、そうした自分への戸惑いからか、せっかく手に入れたアコーディオンを穴の中に放り込み、藁をかぶせ てしまうのが可笑し (く、ちょっぴり哀し) かったけど。

 文盲のためにドイツへの出稼ぎが果たせず、軍隊に入ったガヴィーノが、そこではじめて初等・中等教育を受けるのが私には興味深かった。
 ずいぶん親切というか、それくらい当時イタリアは、学校教育が行き渡っていなかったということなのかな・・・。

 ガヴィーノはここで乾いた砂が水を吸うように知識を吸収する。真空管ラジオを作るまでになるのだから、そうとう頭のいい人だと思う。

 ここで彼は言語学に関心を持つ。入隊直後、方言をバカにされたのがきっかけだけれど、 そのことで、自分が生まれ育ったサルデーニャ島への愛着や、島の人間としてのアイデンティティを自覚してゆくのだ。

 大学入学に猛反対する父とはじめて真正面から対決して (といっても、掴み合いの喧嘩という素朴なものだけど)、自分の道を歩み始めるガヴィーノ。
 それまで絶対的な存在として父親に服従していた少年が、より広い世界を知ることで、父親の強圧的な支配から自立してゆく成長の物語。 枠組みはとてもシンプルだ。それだけに、後半部分がもっと丁寧に描かれたら、という思いも残る。

 ガヴィーノが父の膝に顔を埋めて和解の気持ちを表わすのに対して、父はこぶしを握り締めて最後まで己の意地を通すのが、いかにも “らしくて” 印象的だった。
  【◎△×】7

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