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チャーリング・クロス街84番地


1986年  アメリカ  95分

監督
デヴィッド・ジョーンズ

出演
アン・バンクロフト
アンソニー・ホプキンス
ジュディ・デンチ
モーリス・デナム
エレノア・デヴィッド
マーセデス・ルール

   Story
 古書を通して知り合った中年男女の、本と手紙のやり取りだけで培われた、20年にわたる友情の物語。

 ニューヨークに住む貧乏脚本家ヘレーヌ・ハンフ(アン・バンクロフト)は、古書を見つけ出し読み耽ることに無上の喜びを感じている。
 しかし、ニューヨークの本屋はどこもアメリカ作家の新刊しか扱っていない。

 ある日ふと手にした新聞の広告で、へレーヌはロンドンにある古書店が絶版本や希少本を扱っていることを知り、注文の手紙を出す。

 こうしてヘレーヌとマークス社の主任社員フランク・ドエル(アンソニー・ホプキンス)の間に文通に似た交流が始まる。
 ヘレーヌは幾度となくロンドン行きを決意するが、実現しないまま、20年の歳月が過ぎていく・・・。


   Review
 ずっと以前に一度見て、何となく心惹かれる映画だった。久しぶりに再見。その後、これが実話に基づいていることを知り、意外だった。
 話としては地味だけれどよく出来ているので、かえってフィクションと思っていた。 実人生って、案外、こうした坦々とした流れだからこそドラマが生まれたりするのかもしれないな、と思ったりする。

 ニューヨークに住む古本好きの貧乏脚本家ヘレーヌ・ハンフ。「ヘレン」“Helen” ではなく “e” を付けて「ヘレーヌ」とする辺りは、 少女時代に愛読した「赤毛のアン」のヒロイン、アンが自分の名前を “Ann” ではなくて “e” の付 いた “Anne” だと強調していたのを思い出して、クスリとする。

 子供っぽいこだわりは、アンに共通した少しばかりの偏屈や生き生きした好奇心、何より率直な人柄を感じさせて親しみ深い。

 彼女が手に入れたい古書は、ニューヨークのちっとやそっとの古書店では見つかりそうにない絶版本や希少本ばかりだ。 そんなこだわりに、ロンドンの古書専門店マークス社は見事に応じてくれる。

 主任社員フランクの落ち着いた佇まいは、さすがはプロという静かなプライドを感じさせる。

 面白いのは、ヘレーヌは送られてきた本が版が違っていたり、落丁があったり、何やかやイメージと違うと、遠慮なしに文句をいうところ。 相手は探し出すのにさぞ苦労しただろうに、なんてことはこれっぽっちも考えない。

 古書店の社員たちがまた彼女のそんな手紙を楽しそうに読む。 字幕ではよく分からないけれど、想像するに、ヘレーヌの手紙はどこかユーモラスだったり、陽気な一人よがりだったり、裏表のない人柄がそのまま現れて、 文句を言いながらも嫌味がないのかもしれない。

 こうしてヘレーヌとフランクの間に文通に似た交流が始まり、それはやがて他の4人の社員やフランクの妻ノラ(ジュディ・デンチ)にも広がって、 両者の間には海を越えた不思議な友情が生まれていく。

 終戦直後のイギリスの食糧難の時代に、へレーヌから贈られた缶詰類を嬉しそうに分け合う社員たち、
 お礼に贈られてきた社員の大叔母が手作りした刺繍入りのテーブルクロスを、親友ケイ(マーセデス・ルール)と一緒に大喜びで広げるヘレーヌ。
 ・・・両者の間に行き交う温かい心遣いに、見ているだけで微笑ましい気持ちになる。

 時が流れ、やがて古参の老社員ジョージ(モーリス・デナム)が亡くなり、2人の女性社員セシリー(エレノア・デヴィッド)とミーガンは退社したり音信不通になったりして、 目録整理係ビルとフランクだけになった古書店には何かしら寂寞の気配が漂う。

 そしてある日、ヘレーヌの元にマークス社の新しい秘書からフランクの急逝を告げる手紙が届く。

 何度もロンドン行きを決意しながら、実現しないまま20年が過ぎ、ついに会うことのなかったへレーヌとフランク。 やっと訪れたへレーヌが、今はガランとしてひと気のない古書店内に立つラストは、人生への愛惜がどっと押し寄せて、思いがけず感動してしまった。
  【◎△×】7

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