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ドッグ・ソルジャー


1978年  アメリカ  126分

監督
カレル・ライス

出演
ニック・ノルティ
チューズデイ・ウェルド
マイケル・モリアーティ
アンソニー・ザーブ

   Story
 70年代初頭のベトナム戦争泥沼化をバックに、密輸へロインを巡る謀略に巻き込まれた男の闘いを描く。

 1971年のベトナム最前線。従軍記者ジョン・コンバース(マイケル・モリアーティ)は、 海兵隊で戦友だったレイ・ヒックス(ニック・ノルティ)にヘロインの密輸を持ちかける。

 今はベトナム〜アメリカ間の輸送船の船員であるレイは一旦は断るものの、結局は引き受け、 サンフランシスコに住むジョンの妻マージ(チューズデイ・ウェルド)のもとへ向かう。
 しかし彼を待ち受けていたのは2人組の男だった。

 ジョンともども組織の罠に嵌められたことを知ったレイは、マージとともにニューメキシコの山中に逃走する。
 一方、サイゴンから帰ったジョンは、FBI麻薬調査課長アンタイル(アンソニー・ザーブ)にヘロイン探索に協力することを承諾させられる。


   Review
 ずいぶん以前に見て、インパクトのあるタイトルやニック・ノルティが出ていたおぼろな記憶から、もう一度見たいと思っていた。 十数年ぶりに再見。あまりしっかりストーリーを覚えていなかったので新鮮な気分で見ることができた。

 面白いと思ったのは、ニック・ノルティが扮するレイは麻薬とは何の関係もなく、友人の従軍記者ジョンにヘロインの運び屋を頼まれた時も「とんでもない」と断るほどなのに、 一旦引き受けた後は、元から闇社会の人間のようにいやに馴れた仕事ぶりを見せることだ。

 ヘロインの入った袋をわざわざ汚して目立たなくし、軍港のフェンス越しにポンと道路際に投げ落とし、後でさり 気なく拾いにゆく。

 道端に停まっている車にも用心を怠らず、走り出してから急ブレーキをかけ、その車が通り過ぎてから逆方向に走る、という具合だ。
 (それはレイが察したように闇組織の車であるらしい。組織がなぜそんなに早く察知したかは、後で明かされる。)

 ヘロインを届けるためにジョンの自宅を訪れた時も、待ち伏せしていた2人組に襲われた時も、その後のジョンの妻マージを連れて逃避行に入ってからも、 レイのタフさは変わらない。というより、物資輸送船の船員にしては不思議に思えるほど荒々しい。

 ところで、この映画には奇妙なシーンがある。 マージを連れて渓谷の山小屋に逃げ込んだ後、レイは相手に銃撃戦を挑む時、昔なじみのメキシコ人に以前取りつけたスピーカーからガンガン大音響の音楽を流させるのだ。

 相手にしたらその音が邪魔をして、レイがどこに潜み、どこから襲撃してくるのか分からない。まるでゲリラ戦みたいだな、と思ったところで気づいた。 レイもジョンもかつて海兵隊員としてベトナム戦争を経験している。レイはその時に体験したベトコン・ゲリラの恐怖を、相手に対して再現しているのだろうか・・・。

 この映画全体を覆うのは何ともいえぬ暗鬱な空気だ。マージは子供とともに夫の留守を守る平凡な主婦に過ぎないのに、睡眠薬中毒だ。 精神不安定の彼女にレイが勧めるのはなんとヘロインの服用だ。

 そもそもジョンにしてからが、ベトナム戦争を取材する中で、戦争の大義を見失い、自分が分からなくなっている。

 みんな少しずつ常軌を逸している。ベトナム戦争を直接描いているわけではないけれど、この映画のバックにはアメリカを覆うベトナム戦争の影が色濃く感じられる。

 レイが、ジョンとマージの2人と落ち合うことを約束した線路の上で息絶えていたのは、少なからずショックだった。 あんなにタフなレイだもの、生き延びるとばかり思っていた。

 でも、自分は臆病者、といってはばからなかったジョンが、囮として追手に同行させられている間にだんだんふてぶてしくなっているのが面白いと思っていたけれど、 その彼が、命をかけて自分たち夫婦を守ったレイのために最後に取った行動に、一抹の救いを感じたラストだった。
  【◎△×】6

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