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ドローン・オブ・ウォー


2014年  アメリカ  104分

監督
アンドリュー・ニコル

出演
イーサン・ホーク
ゾーイ・クラヴィッツ
ブルース・グリーンウッド
ジャニュアリー・ジョーンズ
ピーター・コヨーテ(声)

   Story
 遠隔操作で敵地を攻撃する無人攻撃機ドローンの操縦士の日常と葛藤を通して、現代の対テロ戦争の実態を描く戦争ドラマ。

 F-16戦闘機のパイロットとして活躍したアメリカ空軍のトミー・イーガン少佐(イーサン・ホーク)は、今はラス べガスの基地で中東上空を飛ぶ無人攻撃機ドローンを遠隔操作し、対テロリスト爆撃を行っている。

 モニターに映る敵兵に向かってボタンを押すだけのゲームのような戦闘だが、ゲームと違うのは攻撃された人は死ぬことだ。

 任務が終われば郊外の自宅に戻る。そこには妻モリー(ジャニュアリー・ジョーンズ)、2人の子供たちとの平穏な日常が待っている。

 日々違和感の募るイーガンだが、上官のジョンズ中佐(ブルース・グリーンウッド)の指示で、 転属してきた副操縦士スアレス(ゾーイ・クラヴィッツ)とともにCIAの対アルカイダ極秘作戦に参加することになる。


   Review
 『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(14) を見た時、無人攻撃機、いわゆるドローンを使った戦争に肌がザワッとするような衝撃を受けた。

 どんな大義名分があろうと戦争は結局殺し合いだ。より多く殺したほうが勝ち、その本質は古代から変わらない。
 それでも互いに己れの生死を懸け、恐怖の中で戦う時は、まだ相手を「人」と認識しているけれど、無人機による攻撃は「人」と見なす感覚なしに殺傷できる。 それが現代のドローン戦争の恐ろしさだ。

 優秀な空軍パイロットのイーガン少佐は、今はラスベガス近郊の基地に設置されたコンテナで、無人攻撃機ドローンを操縦する日々だ。

 コンテナのドアには「ここより合衆国を離れる」と書いてある。ここより敵地、頭も心も切り替えろ、ということだろうけど、これほどの詭弁はない。 快適に空調が効いた室内でボタン1つ押せば、1万2000キロ離れた土地で人が死ぬ。部屋を一歩外に出れば、そこにあるのはアメリカの平穏な日常なのだから。


 相手を「人」ではなく「モノ」と思い、「殺す」という感覚を麻痺させなければ、精神の均衡が保てそうにない。
 さらにCIAが対テロ特殊作戦で介入し、攻撃条件が大幅に緩んで巻き添えになる民間人の数が急増する。

 印象的なのは、CIAの司令を伝えてくる “声” だ。
 イーガンが標的の建物の中には非戦闘員 (民間人) がいると告げると、“声” は「無関係者の死は深い悲しみだが (何たる偽善!)、 標的は女や子供を盾に利用する。彼らの命とアメリカに対する危険をつねに比較せよ」と迷いなく攻撃すること指示する。

 その結果の死亡者数は “攻撃成果の評価” として数値で表わされる。ここでは人はもう「人」ではなく、「モノ」と化しているのが分かる。

 イーガンは実際にアフガニスタンに派遣されたこともある経験豊かなパイロットだ。 攻撃される危険のない安全な場所から、遠隔操縦で敵を殺傷する今の任務が居心地が悪くてしかたない。
 戦場に復帰したいと上官ジョンズ中佐に何度も懇請するけれど、なかなか叶えられない。

 「その空軍の制服、本物?」と聞くコンビニ店員に「今日はタリバン兵を6人殺した」と真顔でいったり、新任の 副操縦士に「恐怖が懐かしい」「今一番危険なのは高速道路で帰宅すること」とジョークをいうイーガン。彼の苦く複雑な心境が窺える。

 戦争の正義とは何だろう、と思う。
 国を守り、家族を守るため、それが旗印だ。そのために敵兵を倒すことは、自分も同じリスクに身を置いている時なら納得できる。

 しかし自分は絶対に安全な地帯にいての攻撃は卑怯な殺戮にすぎない。イーガンが次第に心を蝕まれ、酒に逃げ込むようになるのは尤もな気がする。 かつては熱烈に愛し合った妻との仲も冷えてゆく。

 意図的に命令不服従を犯し、中東地区の監視任務に格下げになった時、イーガンは監視区域にたびたび現れるDVレイプ男を独断で爆撃する。

 人を殺す行為はどんな理由があろうと正当化されることではないけれど、それでも納得できる相手に攻撃発射ボタンを押したいという彼の気持ちは分からないではない。
 とはいえ、やってはならぬことをしたイーガン。別居した妻子のもとに車を走らせる彼はそのまま軍を退役するのかもしれない。

 民間人の巻き添え、現実感のない殺戮・・・、ハイテク化が極度に進んだ現代の戦争は人間の許容できる範囲を遥かに超えてしまっている、と強く感じる。
  【◎△×】7

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