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追憶の森


2015年  アメリカ  111分

監督
ガス・ヴァン・サント

出演
マシュー・マコノヒー
渡辺 謙
ナオミ・ワッツ
ブルース・ノリス

   Story
 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』などのガス・ヴァン・サント監督が日本の青木ヶ原樹海を舞台に、 死に場所を求めてやって来たアメリカ人男性が、日本人男性と出会ったことで人生を見つめ直すさまを描く。

 最愛の妻(ナオミ・ワッツ)を亡くしたアメリカ人のアーサー(マシュー・マコノヒー)は、自らの人生を終わらせようと、富士山麓の青木ヶ原樹海にやってくる。

 森の奥深くで睡眠薬自殺を図ろうとした時、怪我をし助けを求める日本人男性(渡辺 謙)と出会う。

 タクミと名乗る男はアーサーと同じく死のうとしてここに来たものの、思い直して妻子のもとに戻ろうとしていた。 一緒に出口を探す2人は方向感覚を失い、どこまでも樹海の中をさまよい続ける・・・。


    Review
 富士山麓の青木ヶ原樹海は東尋坊と並ぶ自殺の名所 (という言い方も変だけど)。本作の主人公アーサー・ブレナンも死ぬためにわざわざアメリカからやってくる。

 彼がしたように “a perfect place to die” とネットで検索したら、ほんとに樹海が出てきたのには驚いた。
 でも、東尋坊は身を投げた瞬間にことは決してしまうけれど、樹海は死にきれずに苦しんだり、途中で気が変わったり、いろいろありそうで、 死に場所にはかえってふさわしくない気がしたりもする。

 アーサーも死にきれずに深い森の中をさまよううちに、いつしか “死” ではなく、“生” への道筋を求め始める。こ の時に彼の道連れになるのが、日本人のナカムラ・タクミだ。
 彼は仕事のミスで閑職に追われ、生きがいを失ってここに来たけれど、(詳しい心境の変化は分からないものの) 今は残した家族のもとに帰りたいと思っている。

 アーサーは「助けてくれ」と懇願するタクミと一緒に森の出口を探すうち、足を滑らせて崖下に落ちたり、豪雨があふれて大水に流されたり、何度も命の危険にさらされる。

 死に近づくほど、人は生への欲求が高まり「生きたい」と思う、というのは (経験はないけれど) 分かる気がする。 そういう意味では樹海は、自殺しようとした人に「本当は自分は生きたいのだ」と悟らせてくれる “再生の場所” なんじゃないだろうか・・・、と思ったりもする。

 合間合間に回想として挿入されるのが、アメリカでのアーサーと妻ジョーンとの関係だ。

 ジョーンは何かというと夫に絡み、わざわざ話がややこしい方へ進むようにばかり持っていく。
 はじめは、アーサーが非常勤講師であることや収入が少ないのが気に入らないのかな、よほど上昇志向の強い人なんだろうか、と思ったけれど、 どうやら過去のアーサーの浮気が尾を引いているらしい。

 それでも同情よりは、ここまで夫婦関係が壊れては修復は難しいんじゃないか、という思いのほうが先に立つ。
 ナオミ・ワッツは好きな俳優の一人だけど、本作のジョーンは残念ながらあんまり魅力的じゃない。

 だから彼女の突然の死にアーサーが打ちのめされるのが、(マコノヒーの迫真の演技にもかかわらず) どうもも1つピンとこない。

 話を聞くタクミ役の渡辺謙もうっすら涙を浮かべてさすがの演技だけど、なぜか浮いた感じがする。
 役者はみんないいのにそれがきちんと着地しないのは何故なんだろう。脚本なのか演出なのか、それとももともとのストーリーが弱いのかな・・・?

 「ヘンゼルとグレーテル」の寓話や「キイロ」と「フユ」というタクミの妻子の名前のオチも、「あー、そうなのか」と思う程度で、さほど効いているとは思えない。

 タクミは、アーサーが睡眠薬を2粒ほど飲んだ時に現われたところを見ると、彼の見た幻覚なのかもしれない。
 いわばタクミに導かれて、アーサーは再生の道筋を辿ることになるのだから、生身の人間ではないのかも、と思わせる演出や、 樹海の持つ霊性がもっと深く描かれていれば、とも思う。
  【◎△×】6

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