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藁の楯 わらのたて


2013年  日本  125分

監督
三池 崇史

出演
大沢 たかお、松嶋 菜々子
藤原 竜也、岸谷 五朗
永山 絢斗、山崎 努
本田 博太郎、伊武 雅刀

   Story
 10億円の懸賞金がかけられた凶悪な殺人犯を、福岡から東京へ護送することになった5人のSPと刑事たちの、スリ リングな移送劇を描く。

 7歳の少女が惨殺される事件が起き、8年前に同様の事件を起こし、服役を終えたばかりの清丸(藤原 竜也)が指名手配される。

 少女の祖父で政財界の大物・蜷川隆興(山崎 努)は、「清丸を殺害すれば10億円を支払う」という新聞広告を打ち出し、身の危険を感じた清丸は福岡県警に出頭する。

 清丸の命が狙われる状況下で、警視庁のSP銘苅(大沢 たかお)と白岩(松嶋 菜々子)、捜査1課の奥村(岸谷 五朗)、神箸(永山 絢斗)、 福岡県警の関谷(伊武 雅刀)の5人が移送に当たることになる。

 いつ、どこで、だれが襲撃してくるか分からない緊張状態の中、清丸の護送が始まる・・・。


   Review
 幼い少女を辱めた上に惨殺した人間のクズのような殺人犯を、命を懸けて守らなければならないとしたら、こんなに理不尽な話はない、と正直、思う。
 無事に守り通して裁判に持ち込んでもきっと死刑になるだろうし (じっさい映画ではそうなる)、一体何のために、と思ってしまいそうだ。 こうした自己撞着に陥いるような設定が本作のキモだ。

 新幹線の中で犯人・清丸と警視庁捜査官・奥村、女性SP・白岩の3人だけになった時、白岩が清丸に銃を向け、「銃が暴発したと証言してください」と奥村にいうシーンがある。 「10億円は2人で分けましょう」と。

 奥村が「やめろ」と制止すると、ふっと我に返ったように「そうですか、残念です」と銃をしまうけれど、この時の彼女は10億の金がほしかったわけではないだろう。

 一緒に護送に当たっていた警視庁捜査官・神箸(かんばし)が銃撃戦に巻き込まれて死んだことが許せなかったのだ。
 「これ以上、神箸のような犠牲は出せない」という言葉がそれを表わしている。彼女の銃は清丸の悪に対する怒りなのだ。

 しかし白岩は踏みとどまった。

 こうしたギリギリの瀬戸際でかろうじて自己を保つという人間存在のスリルは、銘苅(めかり)が血走った目で清丸に銃口を突きつけるクライマックスで、 さらに強烈に描かれる。

 交通事故の犠牲者となった亡妻がかつて銘苅に言ったという「人を守るのがあなたの仕事」という言葉をなぞって、小馬鹿にしたように笑う清丸に、 妻は一言もそんな事は言っていない、自分が作った小さな物語だ、それを信じなくては生きてこられなかった、と銘苅は絶叫する。そうでなければ真っ先にお前を殺していた、と。

 それまで銘苅はクールすぎるほどクールにSPという職務に徹底し、殺人犯護送に矛盾は感じてないのかな、と思ってしまうほどだっただけに、 何と激しい葛藤を抱きながら彼はこの仕事をしていたのか、と打ちのめされる思いになる。大沢たかお渾身の演技だ。

 それだけに場面が暗転し、護送車から銘苅に続いてよろめきながら清丸が現れた時は、あー、よかった、と芯から 思った。清丸のためではない。銘苅が人間として超えてはならない一線を守ったことに対してだ。

 それでもすっきりしない後味が残る。なぜなら清丸という男のために、護送中、一体何人の命が失われただろう、と思うからだ。

 報奨金狙いで銃撃戦が起きたり、清丸に近付こうと無関係の少女を人質に取って警官に射殺される男や、白岩にいたってはちょっとした油断から清丸に殺されてしまう。
 こうまでして守らなければならない清丸とは一体何者か、と彼がモンスターに思えてくる。

 じっさい本作の凄さは清丸を徹底的な悪に描いているところだ。華奢な顔立ちの藤原竜也がほんとに巧い。
 俯いて薄笑いを浮かべる清丸、「汚い、触るな」と狂気のように手を洗う清丸、・・・そのおぞましさには見てはならないものを見てしまった怖さがある。

 そして死刑判決に対して「反省と後悔をしています。同じ死刑になるなら、もっとやっておけばよかったなって」という言葉。 人格が壊れたような犯罪が多発する昨今、“背筋が凍る” というありふれた文言が一気にリアリティを帯びる。

 ツッコミどころは山ほどあるけれど、それを押し切る過激な展開と迫力に引き込まれた。
  【◎△×】7

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