HOME50音表午後の映画室 TOP




欲望のバージニア


2012年  アメリカ  116分

監督
ジョン・ヒルコート

出演
トム・ハーディ、ガイ・ピアース
シャイア・ラブーフ
ジェイソン・クラーク
ミア・ワシコウスカ
ジェシカ・チャステイン
ゲイリー・オールドマン
 
   Story
 禁酒法時代のアメリカを舞台に、密造酒製造ビジネスでその名をとどろかせた実在のアウトロー3兄弟と悪徳取締官の抗争を描いた犯罪ドラマ。 3兄弟の末っ子の孫マット・ボンデュラントが書いた同名小説を基にしている。

 禁酒法時代のアメリカ・バージニア州フランクリン。ボンデュラント3兄弟は密造酒ビジネスで名を馳せていた。

 リーダー格の次男フォレスト(トム・ハーディ)は、都会から来て兄弟が経営する酒場で働き始めた謎めいた女マギー(ジェシカ・チャステイン)と恋仲になる。
 野心家の3男ジャック(シャイア・ラブーフ)は牧師の娘バーサ(ミア・ワシコウスカ)に恋心を抱いている。

 そんな中、新たに着任した取締官レイクス(ガイ・ピアース)は、密造酒業者に対して法外な賄賂を要求し、従わない者には容赦のない制裁を行う。 ボンデュラント兄弟は決然と拒否するが、そのために陰湿な脅迫にさらされることになり・・・。


   Review
 舞台は1920年代から30年にかけての大恐慌直後のアメリカ、禁酒法が施行されていた時代だ。

 法律が禁止すれば、当然のように密造者が出てくるし、密売者が現われる。犯罪の悪循環が起きるわけで、禁酒法が悪法といわれる所以だけれど、 私が目新しく思ったのは、これまで禁酒法時代の犯罪映画といえば、もっぱらアル・カポネなどマフィアの密売の利権をめぐる抗争を描いたものだったのに対して、 本作は酒の密造者を主人公に据えているところだ。

 バージニア州はとくに密造が盛んな地域だったらしい。つまり、住民の多くが密造にかかわっていたことになる。
 中でもボンデュラント兄弟は当時すでに地元で伝説的な存在だったそうで、彼らと取り締まる側の警察組織との対立が描かれる。

 じつはこの取り締まる側が曲者だ。密造酒製造を見逃すことの見返りとして、ミカジメ料を取り立てるからだ。

 そんな中、新しく赴任してきた警察署長はこれまでと桁違いの賄賂を要求してくる。 でっぷり太った署長は車から出て来ず (これがけっこう不気味で怖い)、代わりに特別補佐官が脅しをかけてくる。

 これがまた、これまで散々あくどい事をやって来たという匂い紛々の凄味があり、 扮するガイ・ピアースは、これまでのイメージを覆すような粘着質のいやらしさを発揮して、いかにも憎々しい。

 地域の密造者が次々に屈服していく中で、ボンデュラント兄弟は敢然と刃向う。その理由が面白い。
 長男ハワード(ジェイソン・クラーク)は戦争で、次男フォレストは事故でどちらも生き残った、だから自分たちは不死身だ、というのだ。

 冗談としか思えないけど、本人たちはもちろん地元の人もみな本気で信じていたらしく (これが彼らが “伝説” になった由来でもあるのだけど)、 その自負には、酒の密造は非合法には違いないけれど、工夫を凝らし、手をかけた労 働の成果だ、その上前を無闇にはねるマネは許さない、という男っぽい誇りが秘められている。

 もちろん、やり手の特別補佐官がおめおめと引っ込むはずはない。どう決着がつくのかがスリリングだ。

 ボンデュラント兄弟は、次男のフォレストがリーダー格。演じるトム・ハーディがいい。 目に凄味があり、暴力を辞さないけれど、女にはストイックなまでに抑制的。性根の座った男っぽさが魅力的だ。

 シカゴから流れてきて、兄弟が経営する酒場で働く女マギーの翳のある風情もいい。

 ほかにも、早く一人前になろうと焦る末っ子ジャックと牧師の娘バーサの微笑ましい恋や、純真で、機械いじりが得意な脚の悪いクリケットの悲しい死、 特別補佐官一味に襲われて喉を切られたフォレストが30km離れた病院にたどり着く (あとで真相が分るけど、 それも含めて) などサイドストーリーもきめ細かく配置されて、飽きさせない。

 禁酒法が廃止されて正業にもどったボンデュラント兄弟の後日談は、要らないという人もいるけれど、時の流れを感じさせて、私は好きだ。 こうして物語は時の風化を受け、やがて伝説となる・・・、そんな余韻に引かれる。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system