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【 新作映画 2015年 】

百日紅(さるすべり)〜Miss HOKUSAI〜


2015年  日本  90分
<アニメーション>

監督
原 恵一

声の出演
杏、松重 豊、濱田 岳
高良 健吾、清水 詩音
筒井 道隆、立川 談春

   Story
 江戸文化を愛した漫画家・杉浦日向子の代表作の一つ「百日紅(さるすべり)」を、 『映画クレヨンしんちゃん』シリーズなどで知られる原恵一監督がアニメ映画化。
 浮世絵師・葛飾北斎、その娘・お栄と個性あふれる絵師たちとの交流や、江戸に生きる人々の暮らしぶりを江戸情緒たっぷりに描いている。

 お栄(杏)は23歳の女浮世絵師だ。

 父であり師匠でもある当代一の人気絵師・葛飾北斎(松重 豊)の浮世絵制作を陰で支えながら、 居候の善次郎(濱田 岳)や売れっ子絵師・歌川国直(高良 健吾)らとの交流で、溌剌とした日々を過ごしている。

 すぐれた才能を持っているが、絵に色気がないと評されて、負けん気なお栄はまっすぐに絵と向き合っていた。


   Review
 久しぶりにアニメを見た。題材が浮世絵の大家・葛飾北斎ということに興味を持った。
 北斎というとすぐ思い浮かぶのが “富嶽三十六景”。 富士山を取り込んで、街道を行く人や大きな樽のタガを作る職人など、一瞬の動きにストップモーションをかけたような絵は、たしかにアニメ的なところがあると思う。

 中でも、有名な “神奈川沖波裏” は大きく盛り上がった波が飛沫(しぶき)を飛ばし、その向こうに富士山がくっきりした姿を見せる。 構図は斬新、驚くほど大胆だ。

 何年前だったかドイツ一周のツアーでドレスデンに行った時、町の中央にかかった橋にこの絵が大きなパネルで立 てかけられているのを見て驚いたことがある。

 ちょうど富士山のある辺りが飛沫を残して丁寧に切り抜かれ、遠くの家が一軒見えるようにしている。
 ヨーロッパ人も北斎画のデザイン的感覚に惹きつけられるんだな、とあらためて思ったものだった。

 本作も北斎の絵が動き出したような生き生きした映像が魅力的だ。
 大川にかけられた橋を行きかう人々、浅草寺のほおずき市の賑わい、吉原の女たちと客のやり取りなどが写実的に描かれ、江戸の町に実際に身を置いたような気持になる。

 百日紅(さるすべり)の赤い花の咲いた中庭、 清潔に整えられた北斎の妻・おことの家の表戸、末娘・お猶(なお)が雪と戯れる冬の茶店など、美しく丁寧な絵柄に惹かれる。

 一方、面白かったのは、北斎の娘・お栄が妹・お猶を連れて大川で舟遊びをしていると、川波がぐんぐん盛り上がって “神奈川沖波裏” になるシーン。 あるいは、夜火事で燃え上がる炎の勇壮さ・・・、鳶衆が延焼を防ぐために家を破壊する。
 かと思うと、寝ていると首が延びる、という評判の花魁を北斎、お栄、弟子の善次郎が見物に出かける。

 花魁・小夜衣(さよごろも)からもう1つ半透明の首が抜け出て蚊帳の中を飛び回る。「ろくろ首ってこんな風なのかぁ」と、 気味悪いと思うより先に、嬉しくなってくる。

 一方、紙屑だらけの北斎の住まいの汚さには閉口。 北斎が転居魔だったのはつとに有名だけど、それというのも掃除を一切せず、汚くなれば引っ越したからなのだそう。

 父親と同居するお栄にもその気がないらしく、2人そろってゴミだらけの部屋で絵に励む様子に笑ってしまう。

 お栄は男ぶりの言葉遣いだけでなく、性格もそうとう勝気だったようで、父親はもちろん善次郎にも少しの容赦もない。 北斎はそんな娘を面白がっている風があり、絵の才能はもとより、頑固で偏屈で、こんなに似たもの親子ってあるかしら、と可笑しくなる。

 副題に “Miss HOKUSAI” とあるように、エピソードをはっきりお栄に絞って膨らませたら、と思う。北斎とお栄、どっちつかずになったのが残念。
  【◎△×】7

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