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【 新作映画 2015年 】

チャイルド44 森に消えた子供たち


2014年  アメリカ  137分

監督
ダニエル・エスピノーサ

出演
トム・ハーディ
ゲイリー・オールドマン
ノオミ・ラパス
ジョエル・キナマン
パディ・コンシダイン
ヴァンサン・カッセル

   Story
 1980年代に旧ソ連で起こり、隠蔽(いんぺい)されてきたアンドレイ・チカチーロによる大量連続殺人に想を得て、 英国の新人作家トム・ロブ・スミスが時代をスターリン独裁政権下の53年に変えて書いたベストセラー小説を基にし たサスペンス・ミステリー。

 1953年、スターリン独裁政権下のソ連で、9歳から14歳までの子供たちが変死体となって発見される事件が発生する。
 全ての被害者は裸で胃が摘出されており、山間部であるのに直接の死因は溺死、と不審な点が多かった。

 秘密警察の捜査官レオ(トム・ハーディ)は、親友の息子が犠牲となったことから、事件の解明に乗り出す。

 その頃、妻ライーサ(ノオミ・ラパス)にスパイ容疑がかかり、彼女を庇ったためにレオは地方警察に飛ばされ、ここで再び同じ手口の猟奇的な殺人事件に遭遇する。
 署長のネステロフ(ゲイリー・オールドマン)に協力を仰ぎ、事件の真相を暴こうとするレオだったが・・・。


   Review
 <このミステリーがすごい!>で1位になり話題になった頃に原作を読んだ。 原作から受けた、スターリン独裁下の重苦しい空気がスクリーンから押し寄せてくる。終始緊迫した気持ちで画面に見入った。

 冒頭の、スパイ容疑をかけられた獣医のブロツキーが、追手の国家保安省捜査官の隙を見て匿われた農家から野原に逃げ出すシーン、 匿った夫婦が幼い娘たちの前で射殺されるシーンなどは、 原作を読んだ時の痛みがそのまま甦ってくる。

 捕えられたブロツキーは、無実を訴え、「それならなぜ逃げた」と捜査官のレオに問われて、「追いかけるから」と答える。 彼のこの言葉はじつに人間心理の核を突いていると思う。
 悪いことをしていないなら堂々としていればいい、というのは理屈で、人間はそれほど強くない。追われれば、何 もしていなくても、つい逃げたくなる。

 まして監視社会のソ連では、ブロツキーがいうように、目をつけられた時点で「黒」であり、捕まれば即「有罪」なのだから。

 一旦逮捕されれば自白が強要され、 尋問(拷問)の苦しさからでたらめでも協力者の名をあげ・・・。(主人公レオの妻ライーサもこうして逮捕された男の口から苦しまぎれに名前が出される。)

 こうして芋づる式に際限なく反体制派が作り上げられていく図式は、本当に恐ろしい。

 同様に恐ろしいのは、犯罪は資本主義の腐敗の表われであり、社会主義体制の「理想国家」には存在しない、という建前から実際に起こった犯罪が隠蔽されることだ。

 本作の連続殺人犯のモデル、アンドレイ・チカチーロは1980年代、12年間にわたって50人以上の少年を殺害したという。 なぜこんなにも長い期間、殺人が行われ得たのか・・・、それはこの建前から、事件の情報が人々に共有されなかったからだ。

 ソ連は共産主義が崩壊し、ロシアになったけれど、プーチン体制下でその体質はそんなに変わっていない気がする。 日本もだんだん窮屈になってきて、映画をおおう閉塞感が決して他人事でないと感じさせられる。

 映画は、スパイとして名前の挙がった妻の告発を拒否したために地方警察に左遷されたレオが、そこでモスクワで事故死とされた少年殺害事件と酷似した事件に遭遇し、 徐々に、国家体制への疑問を芽生えさせていく様子を描く。


 事件捜査は体制批判、国家への反逆であるとして、レオは国家保安省に狙われるようになる。

 これに、レオの後釜に座った、元部下で彼に恨みを抱くワシーリー(ジョエル・キナマン)の執拗で残酷な復讐や、 愛妻ライーサがじつは国家保安省のエリート捜査官であるレオへの恐怖から彼のプロポーズを受け入れたのであることなど、盛り込まれるサスペンスは極上だ。

 レオ役のトム・ハーディの機関車みたいな頑丈な体躯、鋭い眼光、そして徐々に隠れていた人間味が現われてくる様子や、 ワシーリー役のジョエル・キナマンの蛇のような陰湿さ、さらに妻ライーサのノオミ・ラパス、地方警察署長ゲイリー・オールドマンと俳優陣が素晴らしい。

 国家保安省の手を逃れながら、連続殺人の真犯人を追う中で、同志にも似た夫婦愛を培っていくレオとライーサ。
 レオが新体制になったソ連で「殺人課」の創設を申請するシーンや、レオとライーサが冒頭の農家の孤児2人を施設から引き取るラストに、ホッとした。
  【◎△×】8

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