【 新作映画 2015年 】 |
ラブ&マーシー |
終わらないメロディー |
Story 「サーフィンUSA」など数々のヒット曲を送り出し、“サーフ・ロック” という新たなジャンルを生み出した伝説的ロック・バンド “ザ・ビーチ・ボーイズ”。 その中心的存在であるブライアン・ウィルソンの半生を映画化したヒュー マンドラマ。 曲作りのプレッシャーと天才ゆえの孤独に押しつぶされて精神的に変調をきたしていく1960年代のブライアンをポール・ダノ、 メリンダと出会い再び希望を見いだしていく1980年代のブライアンをジョン・キューザックが演じる。 1960年代、弟デニス、カールや従兄弟のマイク・ラブ(ジェイク・アベル)らと “ザ・ビーチ・ボーイズ” を結成したブライアン・ウィルソン(ポール・ダノ)。 うなぎ上りの人気の中で、新作へのプレッシャーと過酷なツアー活動はブライアンの心を蝕み、次第に彼は薬物に溺れいく。 1980年代、ブライアン(ジョン・キューザック)は表舞台から姿を消し、精神科医ユージン・ランディ(ポール・ジアマッティ)の治療を受けている。 彼は、ある日ふと立ち寄った自動車販売店で、セールス担当のメリンダ・レッドベター(エリザベス・バンクス)と出会うのだった・・・。 Review ビーチ・ボーイズといえば真っ先に浮かんでくるのは、(行ったことはないけど) カリフォルニアの海! きらきら光る水面、大きな白い波、その波頭を軽快に走るサーフ・ボード、 ・・・1960年代のアメリカの突き抜けた明るさを感じさせてくれたのが、ビーチ・ボーイズだった。 それだけに、中心メンバー、ブライアン・ウィルソンを主人公にした本作が、意外に重い内容なのに驚いた。 映画は60年代のブライアンをポール・ダノ、音楽活動は続けているものの表舞台からは引いている80年代をジョン・キューザックが演じ、それぞれ印象に残る好演をしている。 デビューと当時に大ヒットを連発し、あっという間にスター・ダムを駆け上ったビーチ・ボーイズ。けれどブライ アンは、ツアー移動中の飛行機の中でパニックに襲われる。 スケジュールがハードで疲れていた、ということではなく、頭の中に湧いてくる曲想に形を与えたいという欲求が、 人気バンドの一員として舞台で演奏したりツアーに参加したり、という現実に折り合いを付けられなくなったため、という印象だ。 ブライアンの頭の中の音楽は、映画を見ていると、時に幻聴のようにも思える。自分ではコントロールできないだけに、才能があるってかえって苦しいな、と思わされる。 こうしてブライアンはツアーから外れて、スタジオでの音楽作りに専心し始める。 スタジオミュージシャンはプロとして一流の腕を持つ人が多いそうだ。 ブライアンが示す断片的なリズムや音で彼の頭の中にある音楽を敏感にキャッチし、具体的な形で演奏を試みる。 かと思えば、渡された譜面のオーソドックスな作曲法から外れた流れを「?」と思いながらも演奏し、「ア、OK」と曲想を了解する。 こうして音が作られ、メロディとなり、楽曲となっていく様子が、私にはとても新鮮だ。 ポール・ダノの、地上10cmほど浮いたような、心ここに非ずといった空気が (まるで、頭の中の音楽に気を取られているのかな、 という感じ)、ブライアンの天才ぶりや、それ故の苦悩を感じさせる。 60年代と交互に描かれる80年代のブライアンに徐々に比重が移っていくと、彼専属の精神科医ユージン・ランディとの関係がまるでミステリー映画を見るようだ。 マネージャーとしてバンドを支配する父親との葛藤や、曲作りのプレッシャーからドラッグとアルコールに逃げ込んだブライアンを回復させたのはユージンだ。 けれど、同時に彼はブライアンを食い物にしていたフシもある。 高額の治療費だけでなく、多量の投薬によってブライアンを意のままにし、音楽活動にまで介入し、支配するようになっていくのだ。 ブライアンがどのようにして専制君主のようなユージンの “牢獄” から脱出するかが後半の見どころだ。 彼に自由をもたらし、精神的自立を果たす力になったのが、偶然立ち寄った自動車販売店のセールス担当、メリンダとの出会いだ。 エンドロールが始まると、現在のブライアン・ウィルソンが「ラブ&マーシー」を演奏するシーンが流れる。 傍らには、後に結婚したメリンダと2人の間の子供たちが見守るように立っている。波乱に富んだ半生だっただけに、ホッとした気持ちになる。 【◎○△×】7 |