【 新作映画 2015年 】 |
Story 1978年、スイスで実際に起きた、喜劇王チャップリンの遺体誘拐事件をベースにしたヒューマン・コメディ。 チャップリンが晩年を過ごした邸宅や遺体が埋葬された墓地、彼の息子や孫娘も出演し、遺族の全面的な協力のもとに撮影が行われている。 1978年、スイスのレマン湖畔。 出所したばかりのエディ(ブノワ・ポールヴールド)は、親友のオスマン(ロシュディ・ゼム)と娘(セリ・グマッシュ)の住むトテーラーに温かく迎えられる。 そんな中、テレビでチャールズ・チャップリン死去のニュースを知ったエディは、埋葬されたチャップリンの遺体を盗み、身代金をせしめようという、 とんでもない計画を思いつく。 初めはためらっていたけれど、入院中の妻(ナディーン・ラバキー)の高額の医療費が工面できずに困っていたオスマンは、エディと遺体誘拐計画を実行するが・・・。 Review チャップリンの遺体誘拐事件を知った時は、死者の尊厳が冒涜(ぼうとく)されるような気がして、「遺族はいたたまれないだろうな」と思った。 ところが未亡人ウーナは身代金要求に対して、「放っときなさい。チャーリーだって喜ばないでしょう」とまったく動じなかったそうだ。 しかも遺体が美しい麦畑に埋められていたために、遺体を大切に扱ってくれた、と犯人たちに感謝さえしたという。 さすがというか、チャップリンも大物だったけど、未亡人もなかなかだ。 しかし、この事件をベースにした本作は、遺族そのものはほとんど画面に出てこない。 もっぱらずっこけ2人組が犯行に至るまでのいきさつと、身代金要求の間抜けたやり取りが描かれる。 随所にチャップリンに対する畏敬が込められて、遺族が映画化に全面協力したというのもよく分かる気がする。 2人組の1人は出所したてのベルギー移民のエディ。陽気でノー天気でお調子者で・・・。 彼なら犯罪といっても、コソ泥とか寸借詐欺とか、せいぜいそんなところよね、と思ってしまう。 可笑しかったのは、出所後の面倒を見てくれている親友オスマンに、お礼心でテレビをクリスマスプレゼントしたら、「どこから持ってきた」と嫌な顔をされるところ。 てんから信用がない。まー、じっさい盗んだ品だから、仕方ないんだけど。 一方、アルジェリア移民のオスマンは、低賃金の仕事をまじめにコツコツやって、妻子を養っている。 エディがチャップリンの遺体誘拐を持ちかけた時も「とんでもない」と相手にしない。 けれど入院中の妻の高額治療費が払えず、その気になってしまうのだ。 このオスマンの事情が丁寧に描かれることもあって、2人のもくろみが上手くいくように、という気分にすらなってしまう。 エディはオスマンを説得する時、「チャップリンは、弱い者、貧しい者の味方だった。つまり俺たちの友達だ」、だからきっと許してくれる、と屁理屈を並べるけれど、 これはチャップリンに対する最大のオマージュではないかと思う。 大それた犯罪なんてしたことのない2人、遺族に間の抜けた脅迫電話をかけ、 足元を見たチャップリンの元秘書(ピーター・コヨーテ)や警察が2人に本物の犯人である証拠を求めたり、 うろたえた2人が頼まれもしないのに身代金を半額に値下げしたり、・・・そんなやり取りがばかに面白い。 ルーティン・パターンで電話するものだから、公衆電話が逆探知され、2人はあっさり御用になってしまう。 しかし、ラストはほのぼのしたチャップリンからの贈りものが待っている。遺族は2人の告訴を取り下げ、オスマンの妻の治療費を肩代わりしてくれるのだ。 回復した妻が「全額返金する」とチャップリンの墓前で誓うのを聞いて、オスマンが「本気か」と慌てるのにクスリとさせられる。 そして、エディは偶然知り合ったサーカスの美しい女性オーナー(キアラ・マストロヤンニ)に天性の才能を見出されて、道化としての道を歩み出す。 チャップリンが演じ続けた放浪の道化師チャーリーのように。 相方と並んでステージに出ていく後ろ姿は、『サーカス』(28) のラストを彷彿とする。両側に開いた幕がスタンダード・サイズの画面を作るのが心憎い。 ピーター・コヨーテが扮するチャップリンの元秘書が地味な存在ながら印象に残った。 元将校の彼が、見つけ出されたチャップリンの棺に払う最大の敬意。この映画に込められたチャップリンへの思いの象徴のような気がした。 【◎○△×】7 |