【 新作映画 2016年 】 |
Story アメリカのサブプライム・ローンの破綻を引き金に世界経済に大打撃を与えたリーマン・ショック。 それ以前に経済破綻の可能性に気づき巨万の富を手にした金融マンたちがいた、という実話をモデルにした社会派ドラマ。 『マネー・ボール』の原作者マイケル・ルイスのベストセラー・ノンフィクション、「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」の映画化。 2005年、好景気の真っただ中のアメリカ。 金融トレーダーのマイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)は、サブプライム・ローンの破綻を予測するがウォール街では失笑を買うばかりだ。 そこで彼はバブル崩壊によって大金が入る空売り契約を投資銀行と結ぶ。 マイケルの空売り戦略に注目したウォール街の銀行マン、ジャレド(ライアン・ゴズリング)は、 ヘッジファンド・マネージャーのマーク(スティーブ・カレル)にマイケルの戦略を勧める。 引退した伝説の元銀行家ベン(ブラッド・ピット)もまた、バブル崩壊の足音を敏感に察知していた・・・。 Review 自慢じゃないけど私は経済のことは全く分からない。 「円安」「円高」という言葉さえ、「円安というのはドルに対して円の価値が下がることだから、 仮に1ドル100円だったものが120円になると20円分、価値が下がったことになる」と一々頭で置きかえないとピンとこない。 それでも100円が120円になったのに、円「安」なの? とやっぱりこんがらがる。 そんな私が本作を見る気になったのは、リーマン・ショックが、当時、 日本 (どころか世界) 経済に巻き起こした嵐が青天の霹靂(へきれき)のように感じられたからだ。 株も投資も縁のないつましい暮らしの一主婦の私でさえ、「今」という時代は、他国の出来事が決して対岸の火事といえない時代なのだと思わせられた。 正直、映画に出てくる言葉はほとんど理解できない。「ショート」とは “空売り” のことらしい。 では “空売り” ってなに? ・・・現物はないけど、将来売り買いするという、信用をもとにした取り引きのこと。 でも、ないものをどうやって売り買いするの? ・・・と、どこまでいってもチンプンカンプンだ。 でも、映画の中で描かれていることは何となく分かる。 とくに当時、盛んに報道された低所得者層を対象にした “サブプライム・ローン” に関するくだりは興味深かった。 トレーダーから不動産抵当証券の空売りを持ちかけられたヘッドファッジ・マネージャー (これがまた何のことやら、だけど) が、 チームとともにフロリダの住宅市場に実地調査に赴く。 すると、驚いたことに、低収入者がほとんど無審査のローンで住宅を買ったり、ストリップ・ダンサーが頭金なしで5軒も家を購入し、コンドミニアムまで買っている。 これはもう素人の私だっていずれ回収不能で焦げつくのは目に見えている。それなのに誰もそれに気づかない。 なんでこんなことが起こるのかというと、トリプルAの信用度の高い金融商品の中にこの住宅ローンを紛れ込ませているからだ。 というのも、投資の格付け会社は競争会社に取られないように、銀行の思惑に添った格付けをする (と担当者ははっきりとはいわないけど) かららしい。 じっさいの金融システムはもっともっと奇々怪々、魑魅魍魎(ちみみょうりょう)の世界のようだけど、とりあえずこれ だけでもう、「へぇ〜〜・・・」と驚いてしまう。 出演陣がパーフェクトといっていいほど素晴らしい。 なかでも、最初にサブプライム・ローンのリスクに気づく投資家のバーリ役のクリスチャン・ベールと、 ヘッドファッジ・マネージャーのバウムに扮するスティーヴ・カレル。 ドアを閉め切った冷え冷えしたオフィスで、ヘッドフォンをつけたままドラムを叩くバーリ。 いつもTシャツに裸足の半ズボン姿で、左目が義眼の彼、変人には違いないけど、少年時代の怪我でアメフトの夢をあきらめた翳りが感じられる。 バウムは腐った金融システムに義憤を感じている道徳漢だ。 妻に泣き言を訴えたり、人間臭さを覗かせるけれど、一方で、人の思惑などまったく顧みない傍若無人ぶりも見せる。 主な登場人物はほかにもそれぞれ実在のモデルがいるとのこと。アメリカはそういう意味でも面白いヘンな国だなぁ、とあらためて思う。 経済のことが分からなくてもけっこう面白かった。 【◎○△×】7 |