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【 新作映画 2016年 】

家族はつらいよ


2016年  日本  108分

監督
山田 洋次

出演
橋爪 功、吉行 和子
西村 雅彦、夏川 結衣
中嶋 朋子、林家 正蔵
妻夫木 聡、蒼井 優
小林 稔侍

   Story
 山田洋次監督が『男はつらいよ』シリーズ終了から約20年ぶりに手がけた喜劇。
 熟年夫婦の離婚騒動をきっかけに、それぞれの家族が抱える問題が噴出して大騒動になる様子をコミカルに綴る。

 東京の郊外に暮らす3世代同居の平田一家。

 サラリーマン生活を終えてゴルフと酒の隠居生活を謳歌する当主の周造(橋爪 功)は、 ある日ふと、妻・富子(吉行 和子)の誕生日を思い出して欲しいものを聞くと、離婚届を突き付けられる。

 突如として持ち上がった離婚話に、息子・娘たちも集まって家族会議が開かれる。

 ところが、長女・成子(中嶋 朋子)は浪費癖のある夫・泰蔵(林家 正蔵)と別れたいと言い出し、 同居する幸之助(西村 雅彦)と史枝(夏川 結衣)の長男夫婦、独身の次男・庄太(妻夫木 聡)もそれぞれ問題を抱えている様子・・・。


   Review
 タイトルがいい得て妙。『男はつらいよ』シリーズへの自己オマージュが込められているそうだけど、そういうことを抜きにしても、 家族というものをじつにうまく言い当てている。

 心の拠りどころである一方、時々ひどく厄介で、それでいながら懐かしい。 すっぱり割り切れたら楽だろうけど、割り切れないし、割り切りたくない自分もいる。
 これは、ある程度人生を経た人なら自然と頷くところではないだろうか。まことに “家族はつらい” のである。

 観客席は (偶然かもしれないけど) 初老の女性ばかりで、男性はわが夫一人。映画が始まって納得がいった。
 平田家の当主・周造があまりに日本の亭主族そのままなのだ。彼の一挙手一投足を見ているだけで笑いがこみあげ てくる。

 さいわい我がご亭主はこれほど唯我独尊オトコではないけれど、まーまー、日本の夫族は平均してこんなものじゃないかなぁ。
 男性としては、家族に反旗を翻される夫の姿はあまり見たくはないかもしれない。

 後半、家族会議の席で、周造に離婚届を突きつけた理由として、 妻の富子が「服は脱ぎっぱなし。靴下もシャツもひっくり返しのままで洗濯かごに入れる」云々と並べるシーンでは、客席の女性たちからクスッと笑いが洩れる。

 どこも一緒ねぇ〜、という共感だろう。私も思わず隣席の夫の肘をつついてしまった。
 あとで聞くと、夫は「ほら見ろ、俺だけじゃないぞ」と思ったとか。

 長男・幸之助とその妻・史枝は周造夫婦の雛形だ。仕事一筋、家庭のことは妻に任せきり。 悪いことはなぁ〜んにもしていない、ゆえにいい亭主、なんか文句あるか。・・・でここまで夫婦をやってきた。
 何の疑問もないはずだったのに、親夫婦の老年離婚問題が勃発して、じつは内心動揺している。

 映画のラストで、しっかり者の妻に「俺が定年退職した時はこんなことはナシだぞ」といったら、「さぁ、それまで持つかしら」と返されて、 ギクリとするのにまたまた笑ってしまった。


 その点、長女の成子夫婦は、夫の泰蔵は妻に頭が上がらぬ恐妻家で、成子ははっきりものをいう女だけど、私の見るところ、意外に夫婦仲は睦まじい。 成子の気の強さにはどこかひたすらな健気さがあり、泰蔵はそれを分かっており、成子もそうした夫の優しさを分かっている、という感じなのだ。

 周造がなり行きからとはいえ、泰蔵に向かって「髪結いの亭主」と口走ったのは、やっぱりまずかった。「それをいっちゃあ、おしめぇよ」と寅さんならいうかもね。

 末っ子・庄太と恋人・憲子(蒼井 優)の、親の離婚騒ぎに対する距離感がほどよく清々しい。

 特上のうな重を配達に来た店員が、値段のあまりの高さに史枝の背中が思わずヒクッとすると、 すかさず「今はなんでも物価上昇でしょ。ほら、うなぎ上り、って」というのに笑ってしまった。
 これってぜったい寅さんの台詞だな〜。一瞬、“とらや” の面々のあきれ顔が眼に浮かんだ私だった。
  【◎△×】7

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