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【 新作映画 2016年 】

スポットライト 世紀のスクープ


2015年  アメリカ  128分

監督
トム・マッカーシー

出演
マーク・ラファロ
マイケル・キートン
レイチェル・マクアダムス
リーヴ・シュレイバー
ジョン・スラッテリー
スタンリー・トゥッチ

   Story
 アメリカの新聞ボストン・グローブ紙の記者たちが報じ世界に衝撃を与えたカトリック教会の醜聞と、長年それを隠蔽してきた教会組織への追及を、 ピュリツァー賞に輝いた調査報道班を巡る実話をもとに描いた社会派ドラマ。
 アカデミー作品賞・脚本賞を受賞した。

 2001年、ボストン・グローブ紙に新任編集局長として赴任してきたマーティ・バーロン(リーヴ・シュレイバー)は、 これまでウヤムヤにされてきた神父による児童性的虐待事件の追跡調査の方針を打ち出す。

 ウォルター(マイケル・キートン)、マイク(マーク・ラファロ)ら連載コーナーを担当しているチームは、早速取材を開始する。

 カトリック教徒が多いボストンでは彼らの行為は反発を招きかねない。 しかし、チームは地道な取材の積み重ねで、次第に事件の背後に隠された疑惑の核心へと迫っていく・・・。


   Review
 シリアスなテーマでもエンターテインメントに仕上げてしまうのがハリウッド映画。それからすると本作の地味な作りはほんとうに意外だった。

 記者たちが当事者たちを訪ね、インタビューを繰り返し、コツコツと事実を積み上げていくさまを丹念に追う。
 それが取材本来の姿だから、というだけでなく、今も続く被害者たちのトラウマの深さを慮ったからではないかと思う。そこにこの映画の誠実さを見ることができる。

 “スポットライト” とはボストン・グローブ紙の特集欄のことだそうだ。担当記者たちは1つのテーマを長期取材でじっくりと追う。 この特報班に新任編集局長が、カトリック教会神父による児童性的虐待を取りあげてはどうか、と 提案する。

 カトリック教会が地域に持つ影響力の大きさは日本人の私にはなかなか理解しがたいけれど、人々には「神父は “神の代理”」という意識があるそうだ。
 その信頼と権威を利用して、年端もいかない子供たちを性の対象にする神父がいるというおぞましさは、考えただけでも鳥肌が立つ。

 ある女性記者の小さなコラムに目を留め、取材を指示したのは、新編集局長が地元にしがらみがなく、かつキリスト教徒でないユダヤ人だったからかもしれない。
 扮するのはリーヴ・シュレイバー。軸のぶれない懐の大きさを感じさせ、彼の若い頃の出演映画しか知らない私はこんないい俳優になっているとは思わなかった。

 同じく印象に残るのは、一連の虐待事件の被害者側弁護士に扮するスタンリー・トゥッチ。髭もじゃ顔ですぐに彼とは分からなかったけれど、短気で用心深くて偏屈で、 と変人ぶりを発揮しつつ、人間的な愛嬌がにじみ出る。

 取材・調査を進めるうちに、事件を起こした神父が1人2人ではないこと、転属を繰り返しながら、長年にわたって同様の行為を行っていること、 などが明らかになってくる過程は、淡々とした中にも緊張感がみなぎる。

 とくに、取材チームの一人が虐待を疑われる神父たちに共通するある「法則」に気づき、そこからチーム全員で名簿を洗い出すくだり、 その結果の人数が情報提供者サィプが示した数字とほとんど同じと判明するくだりは、真にゾクゾクさせられた。
 このサィプ、電話の声でしか登場しない。『大統領の陰謀』(76) の “ディープ・スロート” を彷彿とした。


 個々の神父の糾弾ではなく、犯罪を隠蔽・温存した「教会という組織」の体質を暴くべきだという新編集局長の方針で、チームは集めた事実の発表を抑えに抑えて満を持す。 一刻でも早くスクープしたいのが記者の本能だと思うだけに、逆の意味で、これも凄い記者魂だと思う。

 取材チームの面々を演じるデスクのマイケル・キートン、紅一点のレイチェル・マクアダムスなど俳優たちに味があり、そのアンサンブルだけでも見応えがある。 中でもタクシー運転手上がりのマイクを演じるマーク・ラファロの熱血記者ぶりが印象的だ。

 記録保管所で裁判資料の提供を申し入れて、判事に「これを記事にした時の責任はだれが取る?」といわれると、「では記事にしない時の責任は?」と切り返す。 カッコいいなぁ〜。
 やっとの思いで資料を手に入れた時の手足が踊り出しそうな興奮に、思わず頬がゆるんだ。
  【◎△×】7

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