【 新作映画 2016年 】 |
Story 『ONCE ダブリンの街角で』などで知られるジョン・カーニー監督が自身の少年時代の体験をベースにした半自伝 的青春ドラマ。 80年代のダブリンを舞台に、悩み多き日々を送る14歳の少年が、一目惚れした年上の女性を振り向かせるために仲間とバンドを組み、恋と友情を通して成長する姿を描く。 1985年、アイルランドの首都ダブリン。 父親の失業で、荒れた公立校に転校させられた14歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)。 家では両親の喧嘩が絶えず、学校ではいじめのターゲットになり、さえない日々だ。 ある日、自称モデルのラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)に一目惚れしたコナーは、思わず「僕のバンドのMVに出ない?」と口走ってしまう。 慌ててメンバーを集め、バンドを組んだコナーは、猛練習を開始する・・・。 Review アイルランド旅行から帰ったちょうどその時に本作が公開された。 わ、偶然だ、と思ったら、お気に入りの映画『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督作と分り、尚更どうでも見なくっちゃ、という気になった。 ストーリーは『ONCE〜』に比べるとシンプル。でも、恋にも音楽にも一直線。まっすぐな若さの勢いが魅力的だ。 80年代のアイルランドは不況の真っただ中、そのあおりで、高校生のコナーは父は失業して両親は喧嘩ばかりしているし、 無理やり転校させられた学校ではいじめのターゲットになるし、1つもいいことがない。 それでもめげるどころか、校門前のアパートに住む年上のラフィーナに一目惚れして、バンドのミュージック・ビデオに出ない? と誘うのには笑ってしまった。 なぜって、バンドどころか、コナーはギターをぽろぽろ爪弾くくらいのことしか出来ないんだもの。 それからあわてて仲間を集めてのバンド作り。このプロセスがけっこう楽しい。 小柄で童顔のダレン(ベン・キャロラン)がマネージャー役を買って出る。 かつて父親がバンドを組んでいたので楽器を一揃い自宅に持っているエイモン(マーク・マッケンナ)、 黒人がいたらバンドに箔が付くという理由で声をかけられたンギグ、とだんだんメンバーがそろっていく。 コナーがラフィーナへの思いのたけを言葉にし、エイモンがギターでポロロンと曲をつけ、徐々に音が足されてメロディーになっていく。 エイモンの自宅で演奏練習。おやつを運んできた母親が身体を揺すって息子の頭をチョンとつつく。 ラフィーナも参加してのMV撮影風景がこれまた楽しい。それぞれが勝手な扮装で集まったものだから、見事にテンデンバラバラ。 ラフィーナに「メークしなくちゃ」といわれて、慌てて「いやだよ」と逃げ腰だ。 でもいつの間にか演奏場面では、みなバッチリ、メークを決めている。 主演のフェルディア・ウォルシュ=ピーロはルックスが凄くいいので、それだけで嬉しくなる。もちろん、演奏も、ボーカル担当のコナーの歌も、どんどん上手くなる。 コナーの音楽を陰で支えるのが、大学を中退して引きこもり状態の兄ブレンダン(ジャック・レイナー)だ。はじめは地味な存在だけど、じわじわ味が出てくる素敵な兄貴。 弟にかける言葉がじつにいい。「ロックには覚悟がいる。冷笑されても貫け」、かっこいいなぁ。 イギリスに憧れる弟に「この島にいたらウツになる」(これには大笑い)、 そして「俺みたいに人生から逃げる気か。お前には未来があるだろ」とラフィーナと一緒にイギリスに向かうコナーの背中を力強く押し出すのだ。 旅立つコナーたちを見送って「よし!」とガッツポーズをし、車の中でじっと思いを噛みしめるブレンダンにホロリ。 見終わってなにより残るのは、これは兄弟の愛を描いた映画だ、という思いだ。 最後に表われる “すべての兄弟に捧ぐ” という献辞に再びホロリ胸が熱くなった。 【◎○△×】7 |