HOME2000〜2010年2011〜2021年2022年〜午後の映画室 TOP




【 新作映画 2016年 】

ニュースの真相


2015年  アメリカ/オーストラリア  125分

監督
ジェームズ・ヴァンダービルト

出演
ケイト・ブランシェット
ロバート・レッドフォード
トファー・グレイス
エリザベス・モス
デニス・クエイド

   Story
 2004年にアメリカで起こった放送局の一大スクープの偽造疑惑という実際の事件をもとに、一連のスキャンダルの真相と、 激しいバッシングさらされてもひるむことのないジャーナリストの信念と矜持を描く社会派ドラマ。

 アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領が再選を目指していた2004年。
 アメリカ最大のネットワークを誇るCBSのベテランプロデューサー、メアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)は、 ブッシュ大統領の軍歴詐称をめぐる問題を追求していた。

 ついに疑惑を決定づける証拠を入手、伝説的アンカーマン、ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)が司会を務める看板報道番組でスクープする。

 番組は大反響を呼ぶが、証拠は偽造されたものだとネットブロガーが指摘したことから、メアリーやダンら番組スタッフは世間の猛烈な批判を浴びるようになる。

 いまや軍歴疑惑は議論の外に置かれ、ダンは辞任、メイプスは事態の収束を図るCBSの内部調査委員会の聴聞を受ける事態になる。


   Review
 冒頭、主人公メアリー・メイプスがイラクの米軍兵士による捕虜虐待事件をスクープするくだりの畳みかけるテンポのよさ!  ケイト・ブランシェットの演技のキレもあって、アメリカ・マスメディアの競争の熾烈さが実感となって迫ってくる。

 本作は、2004年、再選を目指していたジョージ・W・ブッシュ米大統領の軍歴詐称疑惑を、メイプスやダン・ラザーがいかにしてスクープし、 それが誤報とされて、ジャーナリズムの表舞台から消えていったかを、メイプスの手記をもとに描いている。
 『大統領の陰謀』(76) や『スポットライト 世紀のスクープ』(15) などがジャーナリズムの勝利を描いているのに対して、敗北を描いた映画は珍しい気がする。

 メイプスたち取材チームが情報・資料を集め、裏を取り、証言を得てゆく過程がリアルで、息もつけないほどスリリングだ。 そんな中でハイライトの1つが、テキサス空軍でブッシュの上官だった故キリアン中佐が残した文書に行き当たるくだりだろう。


 その文書の持ち主は入手経路を明かすことを拒む。その上、文書自体も原本ではなくコピーだった。

 けれども電話取材に答えた (当時の) 将軍が、(文書の存在自体については明言を避けたにも関わらず) メイプスが読み上げた文書の “内容” について否定しなかったことで、 メイプスは「裏が取れた」と確信してしまう。
 ここにジャーナリストが落ち込む陥穽があったと思う。

 放送期日は既に決まっており、時間との競争の中で、それでもメイプスたちは文書の署名を専門家に検証してもらうなど、出来る限りのことはしたと思う。
 それでも使われた字体や書式などから偽造がネット上で指摘され、世紀のスクープはあっという間に捏造報道に転落してしまうのだ。

 日本でも “スタップ細胞” “オリンピック・ロゴ” など、ネットの検証能力の凄まじさに驚かされることは珍しくなくなった。 過信を戒めつつも、これまた実感が大きく、身につまされる。

 こうして文書の真偽だけが問題とされ、肝心のブッシュの軍歴詐称疑惑はうやむやになっていくのを見て、 私は第3次佐藤内閣時下の1971年、沖縄返還時に起きた “沖縄密約事件” を思い出した。

 返還協定に関して日米間に密約があることを、毎日新聞記者が外務省女性事務官から機密資料で入手し、それをもとに野党議員が国会で追及した。

 ところが入手方法が男女関係によるものであったために、世間やメディアの関心はもっぱらそれに集中し、密約問題はうやむやになってしまったのだ。

 最近 (2000年)、この密約を裏付ける公文書がアメリカで発見されたそうだ。にも関わらず、政府は密約の存在をいまだに否定しているらしい。 体制にとって具合の悪いことは問題のすり替えによってうやむやにされるのはどこの国も変わらない、と妙な感慨を覚える。

 CBSの看板番組を降りることになったダン・ラザーの「すべての人に贈る、“勇気を”」という最後の挨拶の言葉、 メイプスが査問会の後で付添い弁護士のねぎらいに対して返す「私は私よ」の言葉、 そして彼らの毅然とした態度には、敗れたとはいえジャーナリストとしての自負が感じられて、清々しい気持ちになった。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system