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【 新作映画 2016年 】

生きうつしのプリマ


2016年  ドイツ  101分

監督
マルガレーテ・フォン・トロッタ

出演
カッチャ・リーマン
バルバラ・スコヴァ
マティアス・ハービッヒ
グンナール・モーラー
ロバート・ジーリゲル

   Story
 『ローザ・ルクセンブルグ』『ハンナ・アーレント』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督と主演のバルバラ・ スコヴァが再びタッグを組んだミステリー・ドラマ。
 亡き母と瓜二つのオペラ歌手をインターネットで見つけたことから、ヒロインがドイツからアメリカへ真相を探る旅に出る姿を描いている。

 ドイツのクラブ歌手ゾフィ(カッチャ・リーマン)はある日、父親パウル(マティアス・ハービッヒ)に呼び出され、ネットのニュースを見せられる。
 そこには、1年前に亡くなった母エヴェリン(バルバラ・スコヴァ二役)に生き写しの女性が映っていた。

 彼女は、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で歌う著名なプリマドンナのカタリーナ(バルバラ・スコヴァ)だった。 どうしても彼女のことが知りたいという父に強引にニューヨークに送り出されたゾフィは、気まぐれなカタリーナに振り回されながら、彼女と母の関係を探る。

 どうやら母には、家族の知らないもう一つの顔があったらしい・・・。


   Review
 1年前に亡くなった母と瓜二つのオペラ歌手がニューヨークで活躍している。それだけでもびっくりだけれど、それをネットで見つけた父親の反応が異常だ。
 無理やり娘をニューヨークにやり、事情を調べさせ、しょっちゅう携帯を掛けてきて経過を知ろうとする。挙句にその歌手をドイツまで連れてこいと言い出す。 一体どうしたことだろう、と当の娘でなくても不審が起きてくる。

 まるでミステリー小説を読むようだ。フォン・トロッタ監督の前作『ハンナ・アーレント』(12) とあまりに異なる作品世界に戸惑いつつも引き込まれる。

 娘ゾフィはしがないクラブ歌手で、アルバイトに結婚式のプロデュースをしている。そうでもしないと食べていけ ないという設定がせち辛く、かつきめ細かくて面白い。

 事前の聞き取りで若いカップルにいろいろ質問するシーンがある。そこで夫婦が本当に互いを知るのは難しい、みたいなやり取りが出てくる。 これがじつは本作のベースに関わっている。

 父は母エヴェリンを熱愛していた。しかし、その愛し方はかなり強引で横暴だったようだ。

 身内との縁が薄く、どこか謎めいていた母。父と結婚したのは幸せだったのだろうか?  恋人の仲を裂いて奪い取るように結婚した妻に生涯裏切られ、薄々それを感じていたらしい父は、はたして幸せだったのか?
 父と母の間に横たわる秘密はけっこう重いけれど、ゾフィを演じるカッチャ・リーマンの個性もあってか、映画のタッチは意外に軽やかだ。

 ゾフィが調査を命ずる強引な父にあきれながらも丁寧に付き合う様子には娘としての愛情が感じられるし、 終盤、明らかになるラルフ伯父(グンナール・モーラー)と父との確執に驚きつつも、つかみ合って喧嘩する老人2人に苦笑する姿にも深刻さはない。

 オペラ歌手カタリーナのマネージャー、フィリップ(ロバート・ジーリゲル)との恋も、 「これまで (男との関係は) 2年しかもったことがない」「僕は3年」という互いの告白で始まるところがユーモラスで、大人のゆとりを感じる。


 ゾフィがカタリーナに接触し、老人ホームにいるカタリーナの母に会い、徐々に亡母の秘密がひもとかれてゆくプロセスは、とてもスリリングだ。

 ゾフィは恋を得、カタリーナは実父ラルフに会い、大方にとってはメデタシの結末になるけれど、父パウルにとってはどうだったのかな、という懸念が残る。
 ラスト、彼の枕元に現われるシルエットはカタリーナではなく、妻エヴェリンの亡霊のように見えるけど、彼はまだ悪夢にうなされるのかしらん・・・。

 ところで、バルバラ・スコヴァの歌が吹き替えなしというのはほんとうに驚いた。本格的なオペラをみずみずしい声で歌い上げている。 リーマンのジャズも凄くうまい。2人とも女優としてだけでなく、歌手としての実績もあることがあらためてびっくりだった。
  【◎△×】7

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