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【 新作映画 2016年 】

ロング・トレイル!


2015年  アメリカ  104分

監督
ケン・クワピス

出演
ロバート・レッドフォード
ニック・ノルティ
エマ・トンプソン
クリステン・シャール
メアリー・スティーンバージェン

   Story
 ノンフィクション作家ビル・ブライソンのベストセラー紀行本を、ロバート・レッドフォードが主演と製作を務めて映画化。
 見た目も性格も全く違うシニアの悪友2人が、老体に鞭打ちながら、長大なアメリカの自然歩道「アパラチアン・ トレイル」を踏破する中で、自身の人生を見つめ直すさまを映す。

 長年イギリス暮らしの紀行作家ビル・ブライソン(ロバート・レッドフォード)は、60歳を過ぎて故郷アメリカに戻り、悠々自適の日々を過ごしている。

 しかし、ある時ふと目にした一枚の写真がきっかけで、全長3500キロという北米有数の自然歩道 “アパラチアン・トレイル” 踏破を思い立つ。

 1人旅を心配する妻キャサリン(エマ・トンプソン)を納得させるため旅の相棒を探すブライソン。
 名乗りを上げのは酒好きの旧友カッツ(ニック・ノルティ)だった。40年ぶりに再会した2人は意気揚々とロングトレイルへ踏み出すのだが・・・。


   Review
 1000キロ以上もの距離を何か月もかけてただ歩く、という映画、私はけっこう好きで、公開されると見たくなる。

 『サン・ジャックへの道』(05) はフランスのル・ピュイからスペインの聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの1500ロを、主人公たちは2カ月かけて歩く。
 『わたしに会うまでの1600キロ』(14) はアメリカ西海岸を南北に縦断する自然歩道 “パシフィック・クレスト・トレイル” の1600キロを、主人公は3カ月かけて踏破する。

 ところが本作の舞台の “アパラチアン・トレイル” はなんと総距離約3500キロ、アメリカ東部のアパラチア山脈を稜線や谷に沿って縦断する自然歩道だ。 日本の九州から北海道までの距離に相当する。

 おまけに踏破に挑む主人公2人を演じるロバート・レッドフォードとニック・ノルティは、どう見ても70代半ば過ぎ。大丈夫? それだけでもう、見なくちゃ、という気分だ。


 じっさい映画が始まると、ご老体2人のもたつきぶりに笑いがこみ上げる場面が続出だ。 かつての超二枚目レッドフォードも、暴れん坊がかっこよかったノルティも、気分は若いつもりでも足は思うように動いてくれず、情けないやら可笑しいやら、 近頃の我が身も重ね合わさって共感ひとかたならず。

 その上、ノルティは完全なるメタボ体型。歩き始めてすぐに息切れを起こし、後ろから来た若者たちにさっさと追い抜かれる。
 彼らが身軽に岩を飛び移ってゆく谷川では、2人は足を滑らせて渓流にはまってしまう。
 映画終盤では、何と崖道を踏み外し、さいわい下のでっぱり道に引っかかって一命は取り留めたものの、これが最後と覚悟を決めるほどだ。

 トレッキングの経験もスキルもない2人が、こんなにまでしてなぜ過酷な山歩きに挑むのか・・・。

 ブライソンは功成り名を遂げた紀行作家だけれど、今の安楽な暮らしに何ともしれぬ空虚感を抱いている。
 出来事といえば友人・知人のお葬式に参列することくらい。次は我が身かも・・・、とすきま風がスーッと心の中 を吹き抜ける。ここ数年、次々と身内や友人たちを見送った私としては、身につまされるものがある。

 同行者の旧友カッツはアイオワの小さな町を出たこともなく、警察沙汰で刑務所を出たり入ったり。

 断酒したといいながら、リュックの中にウィスキーを忍ばせる。でもそれは、飲みたくなる自分を戒めるための、まだ封を切っていない瓶なのだ。
 ブライソンの前で封を切り、そのまま地面にこぼして瓶を空にしてしまうカッツにほろり。

 2人それぞれに、山歩きの中で自分の心と向き合い、見つめ直しているのが感じられる。

 旅の途中で出会うお喋りで風変わりな女性ハイカー(クリステン・シャール)や野宿で遭遇するクマ、 食料補給で立ち寄った町でカッツが巻き込まれる不倫騒動などさまざまなハプニングが面白く、なにより手つかずの大自然の景観に魅了される。
 ぎりぎり限界まで頑張った後は、あっさりリタイアして帰路につく2人の分別もいい。

 やんちゃ坊主を遠くから見守るかのような、ブライソンの妻キャサリンを演じるエマ・トンプソンの温かな存在感が胸に沁みた。
  【◎△×】7

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