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【 新作映画 2017年 】

怪物はささやく


2016年  アメリカ/スペイン  109分

監督
J・A・バヨナ

出演
ルイス・マクドゥーガル
シガーニー・ウィーヴァー
フェリシティ・ジョーンズ
リーアム・ニーソン(声)
トビー・ケベル

   Story
 47歳でこの世を去ったシヴォーン・ダウドの未完の遺作を、パトリック・ネスが引き継いで完成させた同名ベストセラー児童文学を映画化したファンタジー。
 病に侵された母親と暮らす孤独な少年と、彼に「真実を語れ」と迫る怪物の奇妙な交流を通して、少年の魂の再生と新たな出発を描いている。

 イギリスの小さな町に住む13歳のコナー(ルイス・マクドゥーガル)は難病の母親(フェリシティ・ジョーンズ)と2人暮らしだ。 毎晩悪夢にうなされ、学校に行けば同級生の執拗ないじめにさらされている。

 母の容態が悪化し、世話をするために祖母(シガーニー・ウィーヴァー)が訪れる。口やかましい祖母がコナーは苦手だ。

 真夜中の12時7分、巨大な怪物(声:リーアム・ニーソン)が地響きとともに現われ、 「私が3つの物語を語り終えたら、4つ目はお前が話せ」「それも、隠している真実を語れ」とコナーに迫る。
 こうして怪物は毎夜コナーのもとにやって来るようになる・・・。


   Review
 印象的だった『パンズ・ラビリンス』(06) と同じプロデューサーが手がけていると知って、劇場まで足を運んだ。
 一人の少年の内面に焦点を当てる本作は、ひそやかに、滑り込むように心に染み込んでくるところがあり、思いがけず感動した。

 主人公のコナーは13歳だ。この年齢は、老年近い今思い返しても、胸が痛くなるように不安定な年頃だったと思う。 もう子供じゃないと気負う一方で、ほんとはまだ何も分かっていないことも知っている。 助けが欲しくても素直に求められず、理解してもらえない不安の中で、それすら自覚できずにいる。そんな年頃だ。

 コナーは学校でのいじめと母の病気という問題がそれに輪をかける。
 そんなコナーに寄り添うのが、深夜12時7分になるとやってくる “怪物” だ。といってもじつは家から見える丘の上に立つイチイの巨木の精霊だ。

 彼はコナーに3つの物語を語り、4つ目はコナー自身に語るように迫る。それも「真実」の物語を、と・・・。

 「真実」とは何だろう・・・。
 コナーが毎夜うなされる悪夢がそれに関わっていること、それはコナーが目を背けてきた自分自身の心との対面を意味していること、などがやがて分かってくる。

 そんな中で私が惹かれたのは、善と悪、美と醜、強さと弱さ、そのいずれもが人間の中に同時的に存在する、という「真実」にコナーを導き、 かつ、それを知ったために崩れかかる彼の心の危機を傍で守るのが、“怪物” つまりイチイの木の精霊ということだった。

 昔から山や木や大岩など、身近な自然に神を見、精霊を見てきた日本人には、一見恐ろしげなこの “怪物” が親しみ深く、時に心安らかなものに思える。

 離婚した父はコナーを気遣いながらも、新しい家庭を守ることが先で、コナーを引き取るつもりはない。 祖母は病気の母の看病に精一杯で、コナーに気を配る心の余裕がない。
 どこにも居場所のないコナーの唯一の拠り所が、何百年も自然の風雪に耐えたこの老木の精霊だったのだ。

 そして、さらに深くコナーを支えるのが、重病の母が最後に見せるコナーへの励ましだ。
 「怒りを封じ込めずに解き放ちなさい」と彼女はいう。ふつうなら親は逆のことをいうだろうと思う、「我慢しなさい」と。しかし彼女はいう、「私は分かっているから」と。


 コナーがクラスメートから “透明人間 (存在しない人間)” と貶(おとし)められた時、3つ目の物語として怒りを爆発させる勇気が持てたのは、 この母の言葉があったからではないかと思う。
 死の床でコナーを抱きしめた母が薄っすらと目を開けて、コナーの背後に佇む “怪物” を見つめ微笑むのを見た時、私はあやうく涙ぐみそうになった。

 ここで終わってもいいくらいだけれど、映画にはさらに素敵な結末がついていた。 祖母が若い頃の母の居室をコナーの部屋として調(ととの)えてくれていたのだ。

 ここで分かるのは、“怪物” は母から受け継がれた物語であったこと、厳しい祖母がじつは温かい人であること、 コナーはこうした中に守られて力強く大人への道を歩んでいくだろう、ということだ。

 祖母を演じたシガーニー・ウィーヴァー、母役のフェリシティ・ジョーンズ、コナーに扮したルイス・マクドゥーガル、出演陣がみなとてもいい。 中でも、“怪物” (の声) を演じたリーアム・ニーソンの存在感が素晴らしかった。
  【◎△×】8

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