HOME2000〜2010年2011〜2021年2022年〜午後の映画室 TOP




【 新作映画 2017年 】

夜明けの祈り


2016年  フランス/ポーランド  115分

監督
アンヌ・フォンテーヌ

出演
ルー・ドゥ・ラージュ
アガタ・ブゼク
アガタ・クレシャ
ヴァンサン・マケーニュ
アンナ・プロフニァク

   Story
 第2次世界大戦終結後のポーランドの女子修道院で起こった実話に基づいたドラマ。 ソ連兵たちに陵辱され、妊娠してしまったシスターたちの苦悩に懸命に寄り添うフランス人女性医師の姿を追っている。

 1945年12月のポーランド。
 赤十字の医療活動に従事し、忙しい日々を送っていたフランス人女性医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)は、一人の修道女から助けを求められる。

 担当外であることを理由に一旦は断ったマチルドだったが、何時間も凍てつく戸外で神に祈りを捧げる姿に心を動かされ、ともに遠く離れた修道院へ赴く。

 そこで彼女が目にしたのは、ドイツ敗退後にやって来たソ連兵によって妊娠させられ、臨月を迎えた7人の修道女たちだった。 本来の業務をこなしながら、秘かに修道院に通う過酷な日々を送るマチルドだったが・・・。


   Review
 見終わって、ズシンと重い気持ちになった。戦時下あるいは戦後すぐの混乱がまだ収まらない時に必ずといっていいほど起こる、女性に対する性暴力。 それだけでも被害者は心身に深い傷を負うのに、時には望まぬ妊娠をすることすらある。
 さらに、そうして生まれてくる子供たちは、自分の存在をどう受け止めたらよいのだろう・・・。考えただけで奈落に引き込まれるような気持ちになる。

 本作は第2次世界大戦直後のポーランドの女子修道院で起きた実話をもとにしているそうだ。つまり被害に遭ったのは神に仕えることを終生の目的にした修道女たち。

 後にリーダー格のシスター・マリア(アガタ・ブゼク)が主人公の女医マチルドに打ち明けたところでは、大半が処女だったとか。 修道院に侵入してきた荒々しいソ連兵たちの所業にどれほど恐怖したことかと思う。

 しかし、一方で、マチルドに助けを求めながらも、(診察で) 触れられることを頑なに拒む態度にやりきれない気持ちにもなる。

 彼女たちは被害者なのに陵辱されたことは己が罪であるかのように恥じて、神の罰を怖れるのだ。
 マリアが「信仰を持たないあなたには分からないでしょう」と無神論者のマチルドにいうけれど、マチルドの戸惑いはよく分かる気がする。

 と同時に、それでも赤十字病院の激務の合間を縫って、修道院に通い続けて臨月を迎えた修道女たちのケアを続けるマチルドに、 女性という “性” が本来持つ強さを感じ、感動する。

 生まれた赤子を修道院長マザー・オレスカ(アガタ・クレシャ)が野原に立つ十字架の前に遺棄してことが分かる後半はとてもショッキングだ。 修道院の閉鎖を怖れ、名誉を守ろうとしたのか、それとも、生も死もすべて神の御手に委ねる、という信仰上の信念だったのか・・・。

 それを知った最初に出産した修道女ゾフィアが、絶望からキリスト教では許されない自殺をするのが哀れだ。
 しかし、最後には自分の誤りを認め、急速に病み衰えてゆくマザー・オレスカも痛ましい。

 マチルドが生まれた子供たちを修道院で育てるためのアイデアを思いつき、見事に実行されるラストが小気味いい。 マチルドの周囲にさり気なく登場しては画面に活気を与える戦争孤児たちが、ラストで居場所を与えられ、この試みに重要な意味を持つのも嬉しい驚きだ。


 マチルドとシスター・マリアの間に築かれる友情や、次第にマチルドに心を開き信頼を寄せていく修道女たちとマチルドの交流など、 女性同士の絆が全編を通す芯になっているけれど、忘れてならないのが、赤十字病院のユダヤ人医師サミュエル(ヴァンサン・マケーニュ)の存在だ。

 彼は新米医師のマチルドが数人の修道女の出産にいちどきに立ち会わなければならなくなった時は、彼女の求めに応じて力強い手助けをする。 ユダヤ人ゆえの苦難を乗り越えた懐の深さを感じさせる人間像に惹かれる。
 マチルドへの恋心を時にちょっと図々しく、時に控えめに表わす様子がユーモラスだ。

 抑圧された信仰心と、命を救うというマチルドの合理性に基づいた凛とした姿の対比が鮮やかで、希望の感じられるラストに救われる思いがした。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system