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【 新作映画 2017年 】

ハイドリヒを撃て!
「ナチの野獣」暗殺作戦


チェコ/イギリス/フランス
2016年  120分

監督
ショーン・エリス

出演
キリアン・マーフィ
ジェイミー・ドーナン
アンナ・ガイスレロヴァー
トビー・ジョーンズ
シャルロット・ルボン
アレナ・ミフロヴァー

   Story
 第2次世界大戦下の史実をもとに、ナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画を描いた戦争サスペン ス。
 ナチス占領下のチェコを舞台に、ロンドンのチェコスロバキア亡命政府から指令を受けた実行部隊のハイドリヒ暗殺と、その後のナチスの容赦ない報復が描かれる。

 1941年、ナチス占領下のチェコ。

 ヨゼフ(キリアン・マーフィ)、ヤン(ジェイミー・ドーナン)は、イギリス政府とチェコスロバキア亡命政府の密命を帯びて、プラハに潜入する。 彼らの目的は、ナチスの実力者ラインハルト・ハイドリヒの暗殺だ。

 2人は現地レジスタンスの協力を得て、1942年5月、ついにハイドリヒ狙撃に成功する。しかし、彼らを待ち受けていたのは壮絶なナチスの報復だった・・・。


   Review
 ラインハルト・ハイドリヒ、うーん、聞いたことがあるような、誰だったか・・・、そんな曖昧な印象だった。
 ヒトラー、ヒムラーに次ぐナチス第三の男で、「ユダヤ人問題の最終的解決」(こういう無機質的表現がすでにナチスの体質を表わしていて、 ゾッとさせられる) を提唱・推進したのが彼なのだそうだ。
 渾名が “死刑執行人” “絞首刑人” というから凄まじい。

 本作ではそのラインハルト・ハイドリヒのレジスタンスによる暗殺遂行とその余波が描かれる。

 ヒトラー暗殺は幾度となく計画されたにも関わらず、ついに成功することはなかったのに、ハイドリヒのそれは成功したのだ。 レジスタンスの勝利、とついカタルシスを期待してしまうけれど、現実はそんな甘いものではなく、重 く残酷な結末が待っていた。

 そうした史実をレジスタンスのロマンスを交えて描き、手応えある一作となっている。

 映画はイギリス特殊部隊とチェコ亡命政府の指令を受けて、2人のレジスタンス、ヨゼフとヤンがパラシュートで林間に降り立つところから始まる。
 着地に失敗し怪我をしたヨゼフを親切に介護してくれた地元住民が、じつは報奨金目当てでナチスに通報するつもりらしいと分かる冒頭で、 まずギュンと胸に緊張感がせり上がる。

 2人がプラハで接触を持つ抵抗組織の幹部が、2人をナチスから送り込まれたスパイではないかと疑うシーンで、それはさらに高まる。 ナチスの過酷な支配に喘ぎながらも、市民が互いに疑心暗鬼にならざるをえない状況がよく分かる。
 抵抗組織がハイドリヒ暗殺に関してけっして一枚岩でないことが意外だったけれど、一方で、現実はそうしたものかも、と納得もさせられる。

 SS暗殺に対するナチスの報復の凄まじさは、『シャトーブリアンからの手紙』(11) など様々な映画で描かれている。 ハイドリヒほどの大物ならば、ヒトラーの怒りはどれほどのものか、抵抗組織の幹部がこれによって祖国が抹殺されるのでは、と二の足を踏むのは当然かもしれない。

 じっさい暗殺遂行後、レジスタンスを隠匿したと疑われた村は、男性は全員殺され、女性と子供は収容所に送られて、村は消滅する。 ヤンが「そんな村には行ったこともないのに」と呟くのが印象的だ。


 ロンドンからの指令も二転三転し、そうした葛藤と逡巡の中で準備は進められ、実行に移される。
 一旦は失敗したかに思われたもののハイドリヒの死が確認された後は、ナチスの壮絶な追求が始まる。

 関与を疑われた人々は捕らえられて殺害、あるいは拷問にかけられ、協力者たちはあらかじめ所持していた青酸カリで自死する。
 プラハの大聖堂に立てこもったヨゼフ、ヤンらレジスタンスたちも激しい銃撃戦の果てに、地下納骨堂の水攻めの中で自決する。 ヨゼフを演じたキリアン・マーフィの悲しみをたたえた瞳が胸に残る。

 この映画は彼らを決してヒーローとして描いてはいない。エンドロールの字幕で、この時5000人のプラハ市民が報復としてナチスに殺害されたと告げる。
 1つの命の代償が5000の命・・・、こうなると、ハイドリヒが絶対悪だとしても、その暗殺が果たして正義といえるのか分からなくなる。 そうした葛藤を投げかけるところがこの映画の真骨頂だと思った。
  【◎△×】7

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