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| 【 新作映画 2017年 】 |
パターソン
２０１６年 アメリカ １１８分
監督
ジム・ジャームッシュ
出演
アダム・ドライヴァー
ゴルシフテ・ファラハニ
バリー・シャバカ・ヘンリー
チャステン・ハーモン
ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
永瀬 正敏
Ｓｔｏｒｙ『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』のジム・ジャームッシュ監督が、 ニュージャージー州パターソンを舞台に、バス運転手をしながら詩作をする主人公のささやかな７日間の暮らしを描く。 日本人詩人の役で、永瀬正敏が『ミステリー・トレイン』以来27年ぶりにジャームッシュ作品に出演。また、アメ 
リカの詩人ロン・パジェットの詩の数々が、映画に趣を与えている。ニュージャージー州パターソン。 町と同じ名前のバス運転手パターソ（アダム・ドライヴァー）ンは、妻ローラ（ゴルシフテ・ファラハニ）、ブルドッグの愛犬マーヴィンと穏やかな日々を過ごしている。 毎朝６時に起きて職場に向かい、妻が用意してくれた昼食を食べ、又仕事をして帰宅する。 夕食後はマーヴィンの散歩。途中バーに立ち寄って一杯やり、夜はローラの傍らで眠る。 変わり映えしない毎日だが、そんな暮らしの中からパターソンは詩を紡ぎ出し、ノートに書きとめていく・・・。 
Ｒｅｖｉｅｗジャームッシュ監督の映画というと (そうたくさん見ている訳ではないけれど)、思い浮かぶイメージは、 登場人物たちの「さしたる目的もない、漂うような人生の浮遊感」だ。 たとえば『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84) では主人公たちは寒いクリーヴランドから暖かいマイアミまで流れてくる。 そこで彼らはバラバラに別れるけれど、結局彼らの人生には何も起こらず、これからもそれぞれが漂うような生き方を続けるんだろうな、という後味が残る。 ３人の脱獄囚の道行きを描いた『ダウン・バイ・ロー』(86) でも、最後に彼らはそれぞれ別の道を選ぶけれど、てれんぱれんと脱力した生き方は変わりそうにない。 『デッドマン』(95) の主人公は放浪の末に “魂の故郷” という目的地を得るけれど、それは「死後の世界」＝ “彼岸” のことなのだ。 本作はこうしたこれまでのジャームッシュ作品と共通した要素と異なる要素、 そして私の知らなかった “詩” というジャームッシュ・ワールドも垣間見せてくれる魅力的な映画だった。
まず、パターソンはこれまでの主人公たちのような “さすらい人” ではない。 彼は自分と同じ名を持つパターソンの町でバスの運転手をしている。この町を愛し、仕事を愛し、そしてなにより妻と愛犬との暮らしを愛している。 大層なものは一つとしてないけれど、地に足がついた堅実さが、これまでのジャームッシュ作品と一味違う感触を与えてくれる。 パターソンは毎朝車庫で同僚の愚痴を聞き、バスの乗客のお喋りに微笑し、帰宅後は妻と夕食、そして愛犬の散歩のついでに行きつけのバーで一杯のビールを飲む。 何も事件は起きず、淡々と時間が流れる。それは襟元を広げ、ゆっくり深呼吸するような心地よさ。気がつけば、その脱力ぶりはいかにもジャームッシュ映画らしい。 しかしパターソンの大きな特徴は、彼が詩を書くということだ。 手に触れ目についた日常のあれこれ (たとえば、お気に入りのマッチ箱とか妻への愛とか) を、思いつくままの言 
葉でノートに書き留める。仕事の合間に推敲し、やがて１つの詩になる。それがパターソン自身の字で画面に流れ、彼の低く柔らかな声が読み上げる。 寡黙な彼の心情に寄り添うようなやさしさがそのたびに映画を包む。 妻ローラと愛犬マーヴィンが彼の暮らしに変化と彩りをつける。 ローラはパターソンの詩が大好きで、その上キュートなアーティストだ。(カーテン、ソファ、ドレス、カップケーキ・・・、 墨汁で描いたみたいな白と黒をモチーフにしたデザイン・センスは抜群だ。) ギターを習い、家の装飾をし、いつも溌剌としている。 そして、マーヴィン。夜の散歩ではコインランドリーで立ち止まってラップ詩人の詩に聞き惚れ、毎日パターソンの帰宅時間を見計らってポストをちょっと横倒しにする。 パターソンはそれを必ず元に戻す。 そんな暮らしの中で起きる唯一の事件は、マーヴィンが大切なパターソンのノートをボロボロにしてしまうこと。 でも大丈夫。忽然と現れた日本人の詩人が彼に白紙のノートをプレゼントするのだ。パターソンは気を取り直して、またこれに新しい詩を書きつけるのだろう。 何１つ変わらない彼の暮らし。でもそれが何とも愛おしく感じられる。 【◎○△×】7 |
