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【 新作映画 2017年 】

エル ELLE


2016年  フランス  131分

監督
ポール・ヴァーホーヴェン

出演
イザベル・ユペール
ロラン・ラフィット
アンヌ・コンシニ
シャルル・ベルリング
ジョナ・ブロケ
クリスチャン・ベルケル

   Story
 『氷の微笑』などのポール・ヴァーホーヴェン監督がフィリップ・ディジャンのサスペンス小説「Oh...」を映画 化。ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞 (イザベル・ユペール) と外国語映画賞をダブル受賞した。

 新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェル(イザベル・ユペール)はある日、自宅で黒覆面の男に襲われる。
 しかし、ミシェルは平然と息子ヴァンサン(ジョナ・ブロケ)と食事をし、 翌日は親友でもある共同経営者のアンナ(アンヌ・コンシニ)と新しいゲームのプレビューに出席する。

 その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、ミシェルはレイプ犯が身近にいると確信する。
 父親にまつわる過去の事件から警察に関わりたくないミシェルは、自分の手で犯人を突き止めようとするが、 そんな折、39年前の事件で終身刑を宣告された父親が仮釈放を申請する・・・。


   Review
 黒猫がガラス戸の外で甘えた声で鳴く。 はいはい、とヒロインが戸を開け、猫がスルリと中に入ろうとしたまさにその瞬間、 ガッと凄い力で戸が押し開けられ、全身黒ずくめ、黒覆面の男が押し入ってくる・・・。
 ヒロインのミシェルは勿論激しく抵抗する。男はそれを上回る暴力で彼女を犯し、去っていく。

 この場面の衝撃は大きい。自分がモノとして扱われたような痛みを覚え、映画なんだと思いながらも、呆然とした心持ちになる。 壊れた食器を掃除するミシェルの心中はいかばかりだろう・・・。
 ところが彼女は何事もなかったように会社に出勤し、普段どおりの生活を続けるのだ。

 ミシェエルの取り澄ました表情を見ていたら、同じくイザベル・ユペール主演の『ピアニスト』(01) のヒロインを 思い出した。
 自分の内面深く蠢く欲望、怒り、猜疑心や嫉妬などドロドロした感情などまるでないかのように、心のさざ波を少しも感じさせないヒロイン。 そんなどこか歪んだ (あるいは壊れた) 人間像が共通している。

 ストーリーが進むほど、はじめは同情していたミシェルに少しも共感していない自分に気づいて戸惑ってしまう。

 男狂いの老母や職の定まらない息子、売れない作家の元夫(シャルル・ベルリング)に対して、あまりに辛辣で容赦のない態度・口ぶりに、 彼女が経営するゲーム会社の社員のほぼ全員が彼女に恨みを抱いているという台詞が出てきても、さもあろうと思ってしまう始末だ。

 それでいて、痛めつけられるほど平然と立ち上がるミシェルの姿にいつしか痛快感が湧き、目が離せなくなっている。 ヴァーホーヴェン監督は初めハリウッド女優を起用してアメリカでの製作を考えていたというけれど、ユペールでなければ成り立たなかった映画だとつくづく思う。

 レイプ犯はまったく思いがけない人物だった。
 怪しいメールがミシェルのパソコンに送られてきたり、女性が襲われるゲームにミシェエルの顔が貼り付けられた動画が社内に配信されたり、 いかにも社内の人間のようだったのに・・・。

 しかし犯人が分かっても話は終わらない、一体どこに着地するんだろう・・・。 どこか優位に立ったようなミシェルの振る舞い、彼女は何を企んでいるんだろう・・・。そんなサスペンスがストーリーを引っ張る。


 嵐の夜にお向かいの住人パトリック(ロラン・ラフィット)と鎧戸を閉めて回るシーンは本作のクライマックスの1つかも。

 こうして全てことが終わった時、ストーリーに通奏低音を響かせていたミシェルの父親が起こした39年前の事件が、いかに彼女の心を縛り、壊していたかが浮き上がってくる。
 母親が脳卒中で急死し、父親が獄中で自殺して、やっとミシェルは過去の呪縛から解放されるのだ。能面のようだった顔が晴れやかに見える。 めげずへこたれないミシェルに、女は強い、怖い、と同性ながら思ってしまう。

 しかしさらにドキッとしたのは、パトリックの妻レベッカが引っ越しの準備をしながら何気なく吐く言葉だった。
 敬虔なクリスチャンで貞淑な妻レベッカ。だけど、彼女は何もかも承知で素知らぬ顔をし、ひょっとしたら最後の成り行きまでお見通しだったんじゃないだろうか・・・。 そんな気までしてきて、やっぱり女は強い、怖い、と思ってしまった。
  【◎△×】7

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