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【 新作映画 2018年 】

デトロイト


2017年  アメリカ  142分

監督
キャスリン・ビグロー

出演
ジョン・ボイエガ
ウィル・ポールター
ジェイコブ・ラティモア
アルジー・スミス
ハンナ・マリー
ジャック・レイナー

   Story
 公民権運動が高まりを見せる中で人種対立が激しかった60年代、多くの犠牲者を出したアメリカ史上最大級の黒人暴動、“デトロイト暴動” を題材にした実録映画。

 1967年7月、デトロイト。黒人が多く住む地域で警察の手入れがあり、それがきっかけで町が騒乱状態になる。

 一部が暴徒化し、市警に加えて州警察、州兵までも出動し、戦車が行き交う状態になる。史上名高い “デトロイト暴動” だ。
 そんな中で、2日目の夜、付近で銃声がしたという通報が入る。

 銃声のしたアルジェ・モーテルに捜査の手が入る。
 ここには地元ボーカル・グループ “ドラマティックス” のメンバー、ラリー(アルジー・スミス)とフレッド(ジェイコブ・ラティモア)が宿泊していた。
 クラウス(ウィル・ポールター)が率いる警官隊の徹底的な捜索と宿泊客たちへの過酷な尋問が始まった・・・。


   Review
 デトロイトで起きた黒人暴動がまるで市街戦のような様相を呈している、という報道に接した60年代当時、 深い事情が分からず、私はただもう、荒っぽいなぁ、どうしてそこまでいってしまうんだろう、と思ったものだった。

 しかしその後、問題の根っこには、黒人=犯罪者、という黒人に対する偏見や差別意識、 白人の被害感情 (建国以来、白人が先住民や黒人に行ってきた抑圧に対して、いつか復讐されるのではないかという恐怖) とそこから発する過剰防衛意識、 があることを知るようになった。

 白人警官がよってたかって黒人を殴ったり蹴ったりする様子や、丸腰あるいは無抵抗の黒人を射殺、あるいは路上に押さえつけて窒息死させる、 等々の映像をニュースで眼にすることも珍しくなく、あれから50年経っても人種差別の構図は何も変わっていないと思い知らされる。

 違うことといえば、スマートフォンの広がりで暴行の様子がリアルタイムで動画撮影され、警官たちの「正当防 衛」の言い分が効かなくなったことくらいか・・・。

 それでも裁判になれば、不起訴、あるいは無罪。これも陪審員は圧倒的に白人が多数だからとか。
 これでは黒人社会に憤懣が積もるのは無理もない気持ちになる。

 アルジェ・モーテル事件の発端は些細なことだった。
 無許可営業の酒場に警察の手入れがあり、その強引な手法に周辺の住民が不穏な空気になり、騒ぎが大きくなった2日目の夜、 アルジェ・モーテルに宿泊していた若者の1人が面白半分におもちゃの銃を鳴らしたのだ。

 こんな状況の中でなんて軽率な行動だろう。でも、10代の頃ってそんなものだとも思う。
 神経過敏になっていた警察はそれをスナイパーと判断し、発砲の方向から、アルジェ・モーテルに踏み込む。

 ここからの警察の捜索と泊り客たちへの尋問が凄まじい。
 廊下に壁に向かって一列に並ばせて、銃はどこか、だれが発泡したか、白状しろと迫る。 どれだけ探しても銃は出てこず、客たちは何度聞かれても知らないという。それでも警官たちは最初の見込みを決して変えようとしない。

 泊り客たちの頭を壁に撃ちつけ、銃の台座で殴りつけ、尋問で振るわれる暴力が恐ろしい。 それにもまして恐ろしいのが、決めつけに決めつけを重ねて既成事実化していく、警官たちの思い込みの激しさだ。
 こうして3人の犠牲者が出る。


 先日、NHK-BSで「デトロイト 真実を求めて」という番組が放送された (2018.2.2)。この暴動のレポートでピュリッツァー賞を受賞した記者の孫が、 祖父の足跡を辿りながら暴動の真相に迫ろうとするドキュメンタリーだ。
 アルジェ・モーテルは取り壊されて、今は跡地が公園になっていたけれど、それでも風化しない事件の重さが映像から伝わってきた。

 この暴動で親友フレッドを亡くしたモータウングループ “ザ・ドラマティックス” のリード・ボーカル、ラリーは心身に深いダメージを受け、 以後はグループを離れて教会の聖歌隊で歌うようになる。
 ラストで「主よ・・・!」と呼びかける祈りを込めた歌声が胸にしみた。

 近所の食料品店の警備員ですぐさま現場に駆けつけたディスミュークスを演じたジョン・ボイエガ、ラリーを演じたアルジー・スミス、それそれ熱のこもった好演だ。 中でも、自身、共感も感情移入も出来ないという差別主義者の警官クラウスを演じきったウィル・ポールターに拍手を送りたい。
  【◎△×】7

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