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【 新作映画 2018年 】

スリー・ビルボード


2017年  イギリス/アメリカ  116分

監督
マーティン・マクドナー

出演
フランシス・マクドーマンド
ウディ・ハレルソン
サム・ロックウェル
ピーター・ディンクレイジ
ジョン・ホークス
ルーカス・ヘッジズ

   Story
 ミズーリ州の田舎町で、娘を殺害された母親が警察署長を批判する看板を設置したことから起こる騒動の行方を描いたクライム・サスペンス。

 アメリカ・ミズーリ州エビングの町外れ。寂れた国道に巨大な3枚の広告看板が掲示された。
 娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、7ケ月経っても進展しない捜査状況に業を煮やして掲げたものだ。

 人望厚い警察署長ウィロビー(ウディ・ハレルソン)を非難するメッセージに町の人々は眉をひそめ、 彼を尊敬する警官ディクソン(サム・ロックウェル)はミルドレッドに腹を立てる。

 掲示を取り止めるようさまざまな忠告や圧力がかかるが、ミルドレッドは一歩も引こうとせず、やがて事態は思わぬ方向に・・・。


   Review
 アメリカ・ミズーリ州エビング、架空の街が舞台だ。

 『ゴーン・ガール』(14) や『ウィンターズ・ボーン』(10) もミズーリ州の田舎町や山村が舞台だった。
 そういえば『デトロイト』(17) も、2014 年ミズーリ州ファーガソンで起きた白人警官による丸腰の黒人青年の射殺事件と、 それによってアメリカ全土に広がった黒人暴動を思い起こさせた。

 アメリカは国土が広く大きいだけに、田舎町の閉塞感はかえって、どこにも逃げられない、という強い圧迫感になるのだろうか。 ミズーリという州はそれを象徴的に感じさせる場所なのかと思ったりする。

 だれも通りそうにない寂れた国道沿いに並んだ3枚の広告看板。
 オープニングで破れたり剥がれ落ちたりした看板が丁寧に映されるだけに、その後に主人公ミルドレッドが出す広告が鮮烈だ。

 真っ赤な地に黒い太文字のメッセージ。「レイプされて死亡」「犯人逮捕はまだ?」「なぜ? ウィロビー署長」
 地の赤からミルドレッドの怒りがほとばしり、黒い文字から署長を糾弾する断固とした意志が伝わってくる。

 ミルドレッドの青いジャンプスーツと頭に巻いたバンダナもそう。完全に戦闘モード。妥協の余地のない激しさはいっそ小気味いいほどだ。

 エスカレートする一方の強行手段にはじめはついて行けない気分になるけれど、母娘喧嘩の売り言葉に買い言葉とはいえ、 最後に娘にかけた言葉がその後の出来事と重ね合わされて、いたたまれないのだと思う。
 気がつけば、強い緊張感の中に隠れた母親としての悲しみに、引き込まれてしまっている。

 ウィロビー署長はミルドレッドを訪れて、捜査状況を説明する。 穏やかな人柄の彼は、ミルドレッドの怒りや心痛をなだめたかったのだろう。自分が末期がんだと打ち明けさえする。

 そのさなか急に咳き込み、血痰がミルドレッドの顔にかかる。思わずハッとさせられる。
 署長が慌てて「わざとじゃないんだ」と詫びると、それまでニベもない返事しかしなかったミルドレッドが「分かってるわ」と答えて、救急車の手配をする。

 このやり取りで、署長はもとより町中を敵に回して孤立するミルドレッドも、本来は分別のある善人なのがよく分かる。 事件さえ起こらなければ、よき隣人同士なのだ。さり気ないけれど、強く私の心に刻印されたシーンだった。

 粗暴な警官ディクソンが、心の支えにしていたウィロビー署長の遺書を読むシーンも印象に残る。
 ミルドレッドが投げ込んだ火炎瓶で警察署が炎に包まれても、ディクソンはそれに気付かないほど署長の遺書に心を奪われ、読みふける。 それは、内面にさまざまな問題を抱えたディクソンを受け入れ、認め、励ますものだった。


 これが、ディクソンがバーで容疑者らしき男に出会った時、男から証拠となるDNAを採取する果敢な行動につながっていく。その必死さに胸を打たれる。

 犯人は結局分からずじまいで、容疑者と思われた男のイラク戦争で行ったらしい非道な行為も示唆され、やりきれない気持ちになるけれど、 差別と偏見から一歩踏み出したディクソンの変化が救いになっている。

 終盤、末期がんのウィロビーの行動に虚を衝かれた。 そして、ふつうは敗北あるいは弱さの表われと映りそうな彼の決断が、むしろ家族への愛の表れ、勇気ある行動なのだと素直に納得できた。

 ラストのミルドレッドとディクソンの素っ気ないほど乾いたやり取りがユーモラス。復讐の連鎖に終止符を打ち、赦しの道に向かいそうな予感にホッとしたりして・・・。
  【◎△×】7

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