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【 新作映画 2018年 】

シェイプ・オブ・ウォーター


2017年  アメリカ  124分

監督
ギレルモ・デル・トロ

出演
サリー・ホーキンス
ダグ・ジョーンズ
マイケル・シャノン
オクタヴィア・スペンサー
リチャード・ジェンキンス

   Story
 『パンズ・ラビリンス』などの鬼才ギレルモ・デル・トロ監督が、人間と不思議な異形の生きもの間に生まれた愛を描いたラブ・ファンタジー。 アカデミー賞で作品賞・監督賞に輝いた。

 1962年、ソビエトとの冷戦時代のアメリカ。
 政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、子供の頃のトラウマで声が出せない。

 同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)とアパートの隣室に住む初老の画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)が友人で、 職場と部屋を行き来するだけの穏やかな日々だ。

 ある日、研究所にアマゾンの奥地から得体の知れない生きもの(ダグ・ジョーンズ)が運び込まれてくる。
 半魚人のようなこの不思議な生きものに惹かれ、心を通わせるようになったイライザは、この生きものが間もなく実験のためにを殺されることを知る・・・。


   Review
 仄暗い水の中の古びた部屋、青い光の中を椅子やテーブルが漂い、渋い男性の声が「これはハンサムな王子と声を失った王女の愛の物語である」と語る。 そしてベッドで眠る女性の姿・・・。
 この冒頭シーンでギレルモ・デル・トロ監督のファンタジー世界に引き込まれた。

 でも本編に入るとすぐに、同じデル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(06) では感じなかった怖さに少し身がキュッとする。 理由はヒロイン、イライザが清掃員として働く政府の機密研究機関を包む空気だ。
 白い光を放つメタリックな内部は密閉空間特有の閉塞感に覆われて、見ているだけで息苦しくなる。

 もう1つは、南米から得体の知れない生きものを移送してきた軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)の存在だ。
 『パンズ・ラビリンス』にも軍人の敵役が出てくるけれど、ストリックランドはいつも電気ショック棒を持っていて、半魚人を虐待する。

 上司のホイト将軍との関係を見ると、ほんとは弱い人間にも思えるけれど、マッチョな鎧に身を包み、力を行使するサマは残酷で恐ろしい。

 機密研究機関の非人間性と対照的なのが、研究所の清掃員イライザを囲む人間関係だ。

 まず彼女の住むアパートが映画館の二階というのがいい。階下からはいつも上映中の映画の音 (セリフや音楽、物音など) が聞こえてくる。 生活音そのものじゃないけど、人の気配がまるで昔の棟割長屋みたいだ。
 部屋の貸主である映画館主は上映中の映画のチケットをタダでイライザにくれたりもする。

 同僚清掃員ゼルダと隣室の初老の画家ジャイルズとの関係も温かい。


 ゼルダは口の利けないイライザを何かと庇い、かつのべつ亭主の愚痴をまくしたてる。屈託がなくて明るくて、聞いてるうちにだんだん元気が出てくる。
 ゲイであるために勤め先を首になったジャイルズは、イライザに娘に対するような親密感を持っている。

 イライザの日々は静かだけれど、けっして孤独ではない。それでも、研究所に運び込まれた異形の生きものに心を惹かれるのだ。ファンタジーの真骨頂だ。

 鎖を何重にも巻きつけられて水槽に囚われた半魚人は、身動きするたびにジャラジャラ重い音を立てる。恐ろしいより哀れに思える。
 イライザがゆで卵をそっと水槽の縁に置くと、水からにゅうっと手を出して食べる。彼女の教える手話を覚える。 こうして2人の間に交流が生まれていく様子はドキドキしながらも楽しい。

 イライザの幻想の中で2人がダンスをするシーンはとてもロマンティックだ。筋肉質の見事な身体をした半魚人がセクシー。

 殺されることになった半魚人を研究所から救い出したイライザが (もちろん、ジャイルズ、ゼルダが手助けする)、 埠頭で追跡してきたストリックランドたちに撃ち倒された時、私は半魚人が彼の治癒能力でイライザを蘇生させ、自分1人が海に帰ってゆくのだろうと思った。

 しかし彼はイライザを抱きかかえて、自分の世界に連れ去ってしまう。
 海中深く半魚人と抱き合うイライザの赤いドレスがゆらゆら揺れてなまめかしい。

 バスの窓についた雨のしずくが、流れながらやがて一つになっていくシーンが幻想的で美しい。まるでイライザと半魚人の愛の結合を表わすようだ。
 水中のベッドでまどろむ冒頭の女性は、半魚人と幸せに暮らすイライザなのかな・・・。

 人によっては好みが分かれそうな映画だけど、古い名作へのオマージュもたっぷりで、楽しめた。
  【◎△×】7

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