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【 新作映画 2018年 】

ウィンストン・チャーチル
/ヒトラーから世界を救った男


2017年  イギリス  125分

監督
ジョー・ライト

出演
ゲイリー・オールドマン
クリスティン・スコット・トーマス
リリー・ジェームズ
ロナルド・ピックアップ
スティーヴン・ディレイン
ベン・メンデルソーン

   Story
 第2次世界大戦下、ナチス・ドイツの勢いが拡大する中、ウィンストン・チャーチルのイギリス首相就任からダンケルクの戦いまでの知られざる27日間を描く。 ゲイリー・オールドマンがアカデミー賞の主演男優賞、日本人の辻一弘がメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。

 第2次世界大戦初期の1940年5月、勢力を増すナチス・ドイツの侵攻を前に、フランスは陥落寸前に追い込まれていた。
 イギリスにも脅威が迫る中、ウィンストン・チャーチル(ゲイリー・オールドマン)が新首相に就任する。

 彼はチェンバレン前首相(ロナルド・ピックアップ)やハリファックス外相(スティーヴン・ディレイン)のドイツ宥和策に対し、徹底抗戦を主張する。

 そんな中、連合軍はフランス北部のダンケルクの海岸に追い込まれ、チャーチルはヨーロッパの運命を左右する選択を迫られる・・・。


   Review
 劇場で予告編を見た時、出演者にゲーリー・オールドマンの名があるのに、誰だか全然分からない。 ふつうでいえばチャーチルなんだろうけど、スクリーンに映っているのは記憶にあるチャーチルそのままで、とてもオールドマンが扮しているとは思えない。

 そのうち顔がアップになった。眼がオールドマンだ!
 本物のチャーチルは気むずかしげな鋭い眼で、ちょっと怖い印象を持った記憶があるけれど、オールドマンはハンサムで優しげな眼をしている。 ホッとしたのが我ながら可笑しい。

 本作で私が興味を覚えたのは、チャーチルの中にある愛嬌や人間的な弱さをふっくらしたタッチで描き出している ことだった。それがオールドマンのキャラクターに上手くマッチした。

 序盤、新任タイピスト、エリザベス(リリー・ジェームズ)がやってくるところがまず面白い。

 チャーチルはベッドに入ったまま葉巻をくゆらしている。いかにも横着で、日本人には行儀が悪いと思えるこうした風習は欧米の上流階級では普通のことらしい。

 で、いきなり口述のタイピングを命じ、チェックしては行空けをしていない、文が正確じゃない、と喚きたてる。
 タイプの音がうるさくて考えが集中できん、静かにタイプしろ、なんて無茶をいうシーンもあり、我がまま坊やが癇癪を起こしているみたいで、クスッとしたくなる。

 さらに可笑しいのが、とても私には勤まらない、とエリザベスが泣きながら帰りかけるのを、 妻のクレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)が「あの人は人を脅すのが得意なのよ」となだめるところ。
 そして寝室に行ってチャーチルを諌める。彼、しっかり者の美人の妻には頭が上がらないらしい。

 この後も、難しい戦況の中で苦悩する彼を、クレメンティーンが励ましたり大らかに包み込んだり、睦まじい夫婦仲が描かれる。 ヒトラーとの対決という困難な決断を貫き通せたのには、こうした支えがあったからと素直に納得できた。


 本作のハイライトは、ドイツに追い詰められてダンケルクに集結した30万もの兵士の救出作戦だろう。
 これまで様々な映画で描かれてきたけれど、カレー港の4000人の守備隊が捨て駒となってドイツ軍の引きつけ役を担ったことを私は本作ではじめて知った。

 人の命は数で比べることは出来ないけれど、それでも “4000” の犠牲の上に “30万” が救われると思えば心は揺れる。そしてチャーチルは決断する。
 この時のカレーの准将に打つ電報が凄まじい。「救援はしない」、つまり全滅を命じたに等しいのだ。

 エリザベスが思わずタイピングを止めて、すっと涙を流す。
 それを見たチャーチルが彼女を地下の作戦室に連れて行き、壁に貼った地図で戦況を説明するのが印象に残った。

 彼は決して鬼でも蛇でもない、自分の命令の非情さをよく承知しているのだ。それでも決断しなければならない時がある。
 そんな中でもエリザベスの心情を察知するところに彼の人間性が感じられる。

 一方、ダンケルクで電報を受け取った作戦を指揮する准将が、空を仰ぐ姿が胸に食い込んだ。

 チャーチルが地下鉄で市民と会話するエピソードはフィクションだそうだけれど、国民の総意に敏感なチャーチルらしさが表われていて、楽しい場面になっている。
 みんなが彼に気づいてびっくりし、そわそわしたり戸惑ったり、そのうちだんだん自分からチャーチルに話しかけていく。 戦時を導くリーダーとして、信頼され愛されているのが分かる。

 それでも、戦後の総選挙で彼の率いる保守党は大敗した。チャーチルは「戦時の人」で、「平時の人」でないことをイギリス国民は分かっていたのだと思う。 成熟した国民性を感じる。
  【◎△×】7

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