HOME2000〜2010年2011〜2021年2022年〜午後の映画室 TOP




【 新作映画 2018年 】

女は二度決断する


2017年  ドイツ  106分

監督
ファティ・アキン

出演
ダイアン・クルーガー
デニス・モシット
ヨハネス・クリシュ
ヌーマン・アチャル
ウルリッヒ・トゥクール
ウルリッヒ・ブラントホフ
ハンナ・ヒルスドルフ
ヤニス・エコノミデス

   Story
 『そして、私たちは愛に帰る』などのファティ・アキン監督が、移民排斥テロによって突然愛する夫と息子を奪わ れた女性が、理不尽な現実に立ち向かう姿を描く。
 主演のダイアン・クルーガーはカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。

 ドイツ、ハンブルク。ドイツ人のカティヤ(ダイアン・クルーガー)は学生時代に出会ったトルコ系移民のヌーリ(ヌーマン・アチャル)と結婚し、 息子ロッコにも恵まれ幸せな日々を送っていた。

 しかし、ある日、夫が経営するコンサルタント会社の事務所前で爆破事件が起こり、ヌーリとロッコが犠牲になる。

 移民を狙ったネオナチによるテロであることが判明し、若いドイツ人夫婦(ウルリッヒ・ブラントホフ、ハンナ・ヒルスドルフ)が逮捕されるが、裁判では無罪の判決が下る。 怒りと絶望の中で、カティヤはある決断をするが・・・。


   Review
 本作は3つの章から構成され、第1章では、外出から帰った主人公カティヤが、夫ヌーリと6才の息子ロッコが爆弾テロで死んだことを知らされる。

 ここで印象的なのは、警察が、出掛けに不審な若い女性を見かけた、ネオナチの犯行ではないか、というカティヤの言葉を取り上げず、 トルコ・マフィアあるいは麻薬密売組織の内部抗争を疑うことだ。

 というのは、ヌーリはかつて麻薬売買で服役した経歴があるからだ。今は足を洗い、堅実な暮しをしている。
 しかし警察はヌーリについて、被害者なのにまるで加害者であるかのような質問をカティヤに執拗に繰り返す。

 本作の背景にはドイツで2000年から2007年にかけて実際に起きたネオナチによる連続テロ事件があるそうだ。 ドイツ全土でトルコ人など外国人9人と警察官1人が殺され、多数の重軽傷者を出した。

 しかし、警察は初動捜査で「トルコ人の犯罪組織内の抗争、あるいはトルコ人とクルド人の抗争」という見込み誤りをし、 容疑者逮捕までに11年もかかってしまったという。

 移民に対する極右グループの連続殺人、警察の差別的な対応が社会に波紋を呼んだこの事件を、本作は下地にしているという。

 突然愛する家族を失って、声にならない嗚咽を上げるダイアン・クルーガーの迫真の演技!
 自殺を図ったカティヤが、容疑者逮捕の知らせを受けて、生きることを選択するのが最初の決断だ。

 逮捕されたのはネオナチの若いメラー夫婦、カティヤが目撃した女性とその夫だ。第2章は法廷シーンになる。
 遺体の損壊状況を語る検視官の証言が生々しく、大量の5寸釘が仕込まれた爆弾の恐ろしさや、わずか6才の少年がその犠牲になったことのむごたらしさに、 耐え難い気持ちになる。


 被告側弁護士(ヨハネス・クリシュ)の老獪な法廷戦術、容疑者夫婦と同じ極右グループに属するギリシャ人ニコ(ヤニス・エコノミデス)の怪しげな証言、 ・・・法廷の駆け引きがスリリングだ。

 容疑者メラーの父親(ウルリッヒ・トゥクール)の「息子はヒトラー崇拝者で、納屋で爆弾製造をしていたらしい」という証言や、 カティヤ側弁護士ダニーロ(デニス・モシット)の懸命の法廷活動にもかかわらず、判決は意外にも証拠不十分で「無罪」となる。

 裁判官は一応、「これは無実であることを意味しない」と付け加えるけれど、そんなことで納得できるはずはない。カティヤはここで2つ目の決断をすることになる。

 第3章はカティヤが自らの手で復讐を「成し遂げるのかどうか」、否、それ以上に、復讐を「成すべきかどうか」 に焦点が当てられる。

 ギリシャに乗り込み、ニコの証言は偽証の可能性が高いことを突き止めカたティヤは、メラー夫婦が潜むキャンピングカーを探し出す。

 一連のこのくだりは深い松林が広がる不気味な浜辺の光景と相まって、圧倒的にスリリングだ。

 カティヤに心情移入している私としては、復讐が成功してほしい気持ちになる一方、それでいいんだろうか、という矛盾した思いに襲われる。
 カティヤがひそかに釘爆弾を作るシーンでその思いは一層強まる。

 太く長い5寸釘を何度も何度も火薬の中に混ぜ込むカティヤ。 これで夫婦を殺傷すれば、カティヤは彼らと同じことをしたことになる。その時テロリストの彼らとカティヤの間にどんな違いがあるといえるのか。
 しかし、ここで復讐を止めれば、カティヤはこの後の人生を生きていけるのだろうか。

 映画はどう着地点を見い出すのだろう、と息を詰めるようにして見ていただけに、ラストの衝撃は大きかった。
 メラー夫婦が潜むキャンピングカーに入り、自爆を選んだカティア。私は今もまだ、カティヤはどうすべきだったのか、答えが見いだせない。 ヨーロッパに頻発するテロ事件の根源に突き刺さってくる映画だと思った。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system