【 新作映画 2018年 】 |
Story 山田洋次監督によるホームコメディ、『家族はつらいよ』シリーズの第3弾。長男の妻・史枝が家出したことから平田家に最大のピンチが訪れる。 三世代が同居する平田家。その家事一切を担い、一家の平穏を保っているのが長男の妻・史枝(夏川 結衣)だ。 ある日、家事に疲れてうたた寝をしている間に泥棒に入られ、こつこつ貯めたへそくりが盗まれてしまう。 その時に放った夫・幸之助(西村 まさ彦)の心ない言葉に怒った史枝は、日頃の不満を爆発させて家出してしまう。 一家の主婦が不在となった平田家は大混乱。 体調の悪い幸之助の母・富子(吉行 和子)に代わり、父親の周造(橋爪 功)が馴れない家事に挑戦するがうまくいかない。 周造の旧友・角田(林 稔侍)や居酒屋の女将・加代(風吹 ジュン)が応援に駆けつけるものの、いなくなって初めて分かる主婦のありがたみ。 平田家では長女の成子(中嶋 朋子)・泰蔵(林家 正蔵)夫婦や末っ子の庄太(妻夫木 聡)・憲子(蒼井 優)夫婦も集まって、緊急の家族会議が始まるが……。 Review じつは本作を見た数日後に、地元で名士と評判の夫婦の78歳になる妻が80歳の夫と喧嘩になり、瓶で殴って死なせてしまったという事件の報道に驚いた。 詳細は分らないけれど、妻は最近夫が頑固でとこぼしていたらしい。 近所の主婦が「相談してくれれば・・・家出したら、っていってあげたのに・・・」とテレビのインタビューに答えているのを聞いて、 平田家の主婦・史枝がしたのがまさにそれだ! っと思ったものだった。 現実はフィクションを超えてどんどん過激になって、とてもついていけないけれど、 山田洋次監督の “つらいよ” ワールドは、寅さんの時代から平田家の今に至るまで、どれほどスッタモンダが繰り広げられても、 最後はちゃんと収まるところに収まっていく。そこがいい。 本作のテーマは専業主婦の家事労働についてだ。 最近若い女性の専業主婦願望が高まっているそうだ。「家でゴロゴロできて、ラクでいいなぁ」というところなのかな? 一方、結婚願望は男性よりも女性の方が低いそうで、大きな理由が、家庭と仕事の両立が大変、というもの。 イクメンという言葉が流行(はや)り、男性の家事・育児参加が普通にいわれるようになった今でも、現実は以前とそうは違っていないようだ。 このテーマ、古いようで、今もリアルな問題だ。 ところで、我が家は結婚当初から家計管理は妻の私の役割なので、へそくりの経験はない (必要もない) けれど、 もしも夫から毎月決まった額を渡されて、それで家のことを全部しなくちゃいけないとなったら、さぞさぞ大変だろうなと思う。 最近 “見えない家事” という言葉が主婦の共感を集めている。たしかに家のことって、家事・育児全般にわたって細々したことに際限なく小さなお金がかかる。 それを一々夫に申請してお金をもらうって考えただけで大変。 その時にもしも、渡した額でやれないのはやりくり下手、なんて言われたりしたら、そりゃぁ腹が立つだろうなぁ・・・。 本作では史枝がへそくりをしていることが泥棒が入ったことでバレてしまうのが騒動の始まりだけれど、ここで放った夫・幸之助の言葉は強烈。 寅さんじゃないけど「それをいっちゃぁお終いよ」でしょうね。 それにしても、平田家の面々てほんとにいい人たちばかりだなぁ〜。 定番の家族会議がいつもながらに可笑しくて、クスクス笑ってばかりいたけれど、家出した史枝を責めないどころか、みんな彼女の肩を持つ。 いかに幸之助が日頃亭主関白だったかが知れます。嫁としてこんな心強いことはありません。 しかし山田監督の老練さは、 家出して実家 (といっても今はだれも住んでいない) に戻った史枝が旧友たちに「別れちゃえ」とけしかけられて、「そういうわけにいかない」とつぶやくシーンに表れている。 史枝はこの時に、平田家以外に自分の居場所はないことを、あらためて悟ったのではないかと思う。 「家族にとって主婦という存在」「主婦にとって家族という居場所」、どちらもかけがえがない。そんなことを笑いのうちにサラリと描いて、いつもながらの味わいがある。 【◎○△×】7 |