【 新作映画 2018年 】 |
Story 30年ぶりに再会したベトナム戦争の元戦友3人が繰り広げるロードムービー。 『さらば冬のかもめ』の原作で知られるダリル・ポニックサンが2005年に発表した小説をもとにしている。 2003年12月。ノーフォークでうらびれたバーを営むサル(ブライアン・クランスト)の前に、ベトナム戦争の元戦友ドク(スティーヴ・カレル)が現れる。 ドクの頼みで、2人はさらにリッチモンドに住む同じく元戦友のミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)を訪ねる。 荒くれ者だったミューラーは、今は敬虔な牧師になっていた。 30年ぶりの再会を喜びつつも訝(いぶか)しむサルとミューラーに、ドクは訪問の理由を明かす。 2日前に一人息子がイラク戦争で戦死したという通知を受けた。妻は1年前に先立ち、一人で戸惑っている。ついては2人に息子の葬式に参列してほしい、というのだ。 こうしてドク、サル、ミューラーの3人は、遺体が収容されるデラウェアの空軍基地、さらにはドクの故郷ポーツマスへ旅をすることになる・・・。 Review 本作は、ベトナム戦争の元戦友3人が30年ぶりに再会し、 イラク戦争で戦死した仲間の一人ドクの息子の葬儀に参列するために、ドクの故郷まで旅をするロードムービーだ。 大国アメリカの緩やかな凋落が始まったのはベトナム戦争からだったと思う。 これまでアメリカの正義をなんの疑問もなく信じていた人々が、大義なき戦いに疲れ、自信を失くし、 さらに PTSD で苦しむ帰還兵たちが注目されるようになったのもこの戦争からだった。 そして30年が経ち、ベトナム戦争に従軍した兵士たちの息子たちがイラク戦争に赴く。 時を隔てて2つの戦争がつながり、今もアメリカの人々の心の傷となっているのを感じる。 しかし、本作は大上段にそれを振りかざす訳ではない。 反戦の思いを背後に潜ませつつも、あくまで元戦友の3人の男たちの旅する姿を追いながら、人生の哀感と生きる意味を描き出す。 3人のキャラクター設定が絶妙だ。ドクは言葉少なく、終始沈みがち。 半年前に妻を失くし、今また一人息子の戦死の通知を受けているのだから当然だけれど、それだけではない痛みを抱えているように見える。 小さなバーを経営し、酒浸りの荒れた暮らしをしているサルは、お為ごかしが嫌いでちょっと露悪的だ。口は悪いけど真情がある。 かつては女たらしの暴れん坊だったミューラーは、なんと今は牧師だ。信仰は本物。世間的な分別も弁えている。でもその分綺麗ごとのところもある。 サルとミューラーの対比がよく表れているのが、ドクが息子ラリーの遺体と対面する場面だ。 上官のウィリッツ大佐(ユル・ヴァスケス)から、頭部を吹き飛ばされているから見ないほうがいい、と忠告された時、 息子の親友ワシントン上等兵(J・クィントン・ジョンソン)が死の経緯 (真相) を知っていると分かった時、サルとミューラーは正反対の忠告をする。 サルは事実を知ることを、ミューラーは英雄として死んだという軍の話を信じることを勧めるのだ。 サルは現実を突きつける損な役回りだけど、それだってミューラーの訳知り顔の分別への反発に過ぎないし、 ミューラーの思いやりだってドクの現実の痛みに深入りしたくないだけなのだ。 そしていずれの時もドクはサルの忠告に従い、その結果、アーリントン墓地での軍葬を拒否して、故郷で息子ラリーに私服を着せて埋葬する選択をする。 こうしてデラウェアの空軍基地からドクの故郷ポーツマスへの旅が始まり、そんな中で3人は互いに影響しあい、少しずつ変化していく。 さらに3人が抱えるベトナム戦争の過去の傷が少しずつ見えてくる。 といってもリンクレイター監督らしく回想シーンは使われず、ストーリーはあくまで現在進行形なので、3人の会話からそれとなく察しられるという具合なのだけど。 3人が途中、戦死した仲間の老母を見舞うシーンが印象的だ。 ここで3人は「真実を伝えるべきだ」という訪問の目的と裏腹に、息子は英雄として死んでいったという老母の思いを否定せず、そのまま受け入れるのだ。 彼らはこの時、戦争のつらく苦い体験とその思いを、「真実」として、たしかに分かち合ったのだと思う。 それはその後のラリーの葬儀に如実に表れる。サルとミューラーは、それとなく、しかも温かく、ラリーは軍服で埋葬したほうがよいと勧め、 ドクもそれを素直に受け入れるのだ。 死者に対するリスペクトあふれる葬送の儀式。サルとミューラーは軍装をきっちりきめての参列だ。 そしてラストの、親友ワシントンに託したラリーの遺書の内容が分かった時、静かに満ちてきた言い表わしがたい感動・・・。 3人の男たちそれぞれの “これから” に思いを馳せつつ、劇場を後にした。 【◎○△×】7 |