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【 新作映画 2018年 】

女と男の観覧車


2017年  アメリカ  101分

監督
ウディ・アレン

出演
ケイト・ウィンスレット
ジム・ベルーシ
ジャック・ゴア
ジャスティン・ティンバーレイク
ジュノー・テンプル

   Story
 1950年代のアメリカを舞台に、平凡な日常に飽き足らず、舞台に立つ夢を諦めきれない元女優の恋と人生の切なさ を描く。

 1950年代のコニー・アイランド。元女優のジニー(ケイト・ウィンスレット)は遊園地のレストランでウエイトレスとして働いている。

 回転木馬の管理人を務める夫ハンプティ(ジム・ベルーシ)とは再婚同士。観覧車の見える部屋に住んでいる。
 連れ子のリッチー(ジャック・ゴア)は問題児で、ジニーは彼の放火癖にいつも悩まされている。

 ある日、ギャングと駆け落ちして音信不通だったハンプティの娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現われたことから、ジニーの日常の歯車が狂い始める。 じつはジニーは、海水浴場で監視員のバイトをしている脚本家志望のミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)とひそかに付き合っていたのだ。


   Review
 遊園地といえば非日常の空間。いってみればそこでは毎日がお祭りだ。日頃の瑣事(さじ)を忘れて心の洗濯ができる、 いずれまた日常に戻るにしても。

 でもふと思う、じゃ、ここで働く人はどこに非日常を見つけるんだろう? ふつうに考えれば、どこか別の遊園地に遊びにゆく・・・、 それとも本作のヒロイン、ジニーや海水浴場の監視員ミッキーのように “夢” に逃げ込むことかな・・・。

 それにしてもケイト・ウィンスレットって、女優になりそこねて、その夢をいつまでも諦めきれない女がどうしてこんなによく似合うんだろう。
 『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08) では、才能がないと分かっても “何者かである” ことを捨てきれないエイプリル。 本作では、自分の浮気が原因で最初の夫が自殺し、女優をあきらめた後も、その夢から離れきれないジニー。

 平凡な日常に折り合いが付けられない焦りが、ジニーの情緒不安定な言動から焼けつくように伝わってくる。
 中年にかかったウィンスレットの体型が、ウェイトレスという現実に縛られたやるせなさをリアルなものに感じさせる。

 ジニーは海岸監視員のミッキーが脚本家志望なのを知ると、女優復活への道が開けたかのように、(性懲りもなく) 彼との浮気に突っ走る。

 まー、分からなくはないけどね・・・。夫ハンプティは回転木馬の管理人という仕事に満足し、休日は仲間と釣りを楽しみ、 駆け落ちした娘カロライナが戻ってくれば、カンカンに怒りながらも、許して、夜学に通わせる。地に足の着いたとてもいい人だ。
 でも彼のこの平凡さがジニーは受け入れがたいのだから、どうしようもない。

 いっときの賑わいを見せつつも、寂れゆく夏のリゾート地、 同じところをぐるぐる回り続ける回転木馬や観覧車、・・・どれもこれもまるでジニーの人生の暗喩のよう・・・。

 ところで、監視員のミッキーが初めにジニー、次に若いカロライナに惹かれる理由が面白い。
 ジニーを監視台で見かけた時は彼女の負う影に惹きつけられる。 実際ジニーはその時、息子リッチーの放火癖や夢のない暮らしに絶望して、自殺を考えながら浜辺をふらついていたのだ。

 カロライナに対しても同様だ。イタリア系ギャングと駆け落ちし、離婚した後はFBIの捜査に協力したために元夫に命を狙われ、とまるで映画 (笑) みたいな半生だ。
 ミッキーは、彼女に比べれば自分なんて人生のほんの上っ面を撫でて生きてるだけ、と思うのだ。


 本作の語り部を勤めるミッキーは、いわば人生の観察者だ。でも “観察者” はイコール “傍観者” でもある。彼自身がその人生を生きている訳ではない。
 さらにいえば、一見ドラマティックに見える部分にばかり目が行く彼の人生考察は、表層的で深みがない。 そこが多分、脚本家としての彼の限界なんだろうなと思う。

 ジニー、ミッキー、2人の “夢” にウディ・アレン監督は容赦がない。

 リッチーがまたもや火つけ遊びをするラストが衝撃的だ。ジニー、ミッキー、そして何も気づかないハンプティ、リッチーの放火癖、と現実は何一つ変わらない。

 付き放すような皮肉なラストに苦い後味を覚えつつも、じつは終盤、ギャングに拉致されて姿を消したカロライナに希望を感じたことをそっといい添えたい。 駆け落ちという「若気のいたり」からしっかり教訓を得た彼女、ちゃんと生き延びて、どこかで新規まき直しを図ってるんじゃないかな・・・。
  【◎△×】7

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