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【 新作映画 2018年 】

1987、ある闘いの真実


2017年  韓国  129分

監督
チャン・ジュナン

出演
キム・ユンソク
ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン
パク・ヒスン、キム・テリ
イ・ヒジュン
カン・ドンウォン
ソル・ギョング

   Story
 翌年にオリンピック開催をひかえた軍事政権下の韓国で起きた民主化闘争の実話をもとにした社会派ドラマ。

 1987年1月、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領率いる軍事政権下の韓国。
 民主化運動に関わり連行されたソウル大学生・朴鐘哲(パク・ジョンチョル)が取り調べ中に死亡する。

 反政府勢力の取り締まりを強化する南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)は隠蔽を図り、遺体の火葬を強行しようとする。

 しかし、手順を外した火葬申請を不審に思ったチェ検事(ハ・ジョンウ)は、上司の忠告を無視して司法解剖を強行する。
 その結果、拷問致死が判明し、政府に対する怒りと不信が国民の間に広がっていく・・・。


   Review
 お隣の韓国がつい30年ほど前まで長い軍事独裁が続いたことや、1980年代は全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領が国を率いていたことは、 知識としては知っていても、日本人の私には実感のないことだった。

 当時日本は空前のバブル景気に浮かれていて、すべてが上っ調子。そんな世相に違和感の強かった私は、早く落ち着いてほしい、とそればかり願っていたのを思い出す。
 それだけに、韓国がどのように民主化の道を歩んだのか、その道程に関わった人たちの血を吐くような思いは、私にとって少なからぬ衝撃だった。

 ソウル大学生・朴鐘哲(パク・ジョンチョル)の拷問致死事件と、デモ中に頭部を催涙弾で直撃された延世大学生・李 韓烈(イ・ハニョル)の死、巻き起こる大規模な民衆の反政府デモ、軍政の終焉・・・。
 民主化への動きが、迫力ある数々のエピソードで綴られる。

 主要登場人物たちの個性があまりに強烈でフィクション上の人物と思いたくなるけれど、(全てではないにしても) 実在の人物たちというのに驚いた。

 まず、治安本部の対共分室所長パク。眼光鋭く、厚みのある身体で部下を従えるさまは、マフィアの大物ボスそのまま。その威圧感は見ているだけで胸苦しくなる。

 共産主義の排除に異様な執念を燃やし、それを国家に対する忠誠と信じる姿には人間性の喪失すら感じてしまうけれど、 終盤に脱北者である彼の悲惨な過去が明かされると、彼への見方が変わるのを感じる。

 取り調べ中に死んだソウル大生の遺体をすぐさま火葬し、拷問を隠蔽しようとした治安本部の目論見にストップを掛けるのが公安部のチェ検事。 民主化への共感や正義感というよりも、法の番人としての検事の本分を踏みにじられることへの怒りが根っこにあるらしい。

 面子を潰されてたまるか、という自負心が、結果的に民主化運動の大きなはずみを作るところが面白い。


 アルコール依存症であったり、検事をクビになると知らん顔で記者に情報をリークしたり、 逮捕された拷問警官たちに「弁護士が必要な時は是非どうぞ」と売り込んだりする。したたかで図太いキャラクターが魅力的だ。

 パクにしてもチェにしても絵に描いたような悪や善でなく、陰影のある人物像になっているのに惹かれる。
 演じるキム・ユンソク、ハ・ジョンウはともに『チェイサー』(08) の印象が強烈だった。本作では演技の奥行きがいっそう増したように感じられる。

 刑務所所長や看守など体制側に身を置きながらも、民主化運動に密かに共感し、あるいは運動に身を投じる人たち がいるのが興味深い。
 看守ハンは演じるユ・ヘジンの特異な風貌もあって、時にユーモラスに、時に緊張感をはらんで、監視の目をくぐりながら運動の連絡役を果たすサマがスリリングだ。

 そして彼の姪の女子大生ヨニ(キム・テリ)。一見政治に対して無関心なのは、かつて民主化運動に関わった父親の死、そこから生じる深い無力感のためなのだ。

 しかし、思いを寄せる延世大生ハニョル(カン・ドンウォン)の死や叔父ハンが拘束されたことで、運動に目覚めていく。 ラストの、運動のリーダーたちと壇上に立ち、拳を突き上げる姿に思わずウルッとなった。

 本作を見ていて感じるのは、対共政策という大義名分の下に軍事独裁が正当化される怖さだ。

 これは韓国に限った話ではないと思う。もっともらしい正義や大義のもとに国論が操作され、体制に不都合な言論が封殺されていく。 日本でもそんな風潮がじわじわと日常を覆っているのを感じるだけに、1987年の隣国の人々の気概が今、私達にあるのだろうか、と思った。
  【◎△×】7

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