【 新作映画 2018年 】 |
Story 直木賞作家・葉室 麟の小説をもとに、藩の不正を糺(ただ)そうとしたために逆に藩を追われた主人公が、 亡妻の最期の願いを叶えるために故郷に戻り、再び不正に立ち向かう姿を描く。 享保15年。扇野藩で四天王と呼ばれた剣豪・瓜生新兵衛(岡田 准一)は、8年前、藩の不正を告発したものの追放の憂き目に遭い、 今は妻・篠(麻生 久美子)とともに京に暮らしている。 重い病に冒された篠は、新兵衛のかつての良き剣友であり、篠を巡る恋敵でもあった榊原采女(西島 秀俊)を助けてほしい、と言い残して亡くなる。 妻の願いを受けて故郷へ戻った新兵衛は、義妹・里美(黒木 華)と義弟・藤吾(池松 壮亮)が守る妻の実家・坂下家に身を寄せる。 一方、藩内では城代家老・石田玄蕃(奥田 瑛二)と側用人・采女の対立が深まっていた。 Review 岡田准一の殺陣に心底、惚れ惚れした。テレビの小さな画面で見ている時はあまり気づかなかったけど、彼ってあんまり背が高くない。 それでも、それが気にならないどころか、がっしりした肩幅、ちょっと前屈みの大股な歩き方、加えて鋭い眼光に支えられて、壮年期の三船敏郎を彷彿とさせる風格がある。 斬り合いシーンともなると、無駄のないシャープな力強さ、流れるような美しさ、一瞬で決まる動きの見事さにただただ目を奪われる。 映像の美しさも印象に残った。雪が降りしきる京の屋敷町、木洩れ日が落ちる緑豊かな街道筋、陽光を反射させて流れる石だらけの浅瀬、 新兵衛が身を寄せる亡妻の実家の湿り気を帯びた竹林・・・。 そして何よりハッとしたのは新兵衛が良き友であり、かつての恋敵でもある采女と対決する庭の散り椿の美しさだ。 1つの木に白、赤、桃色、と異なる色の花が咲く。我が家のツツジと同じ “咲き分け” だ。 椿は首が落ちるように花ごとぼたりと落ちるので縁起が悪といわれるけれど、“散り椿” は花片だけが散る。 風に舞う美しさが場の緊張感をいっそう強めるように思える。 登場人物たちの控えめな中にも奥行きを感じさせるキャラクターにも惹かれる。はじめは単調な人物像に思えた新兵衛だけれど、 采女に真剣勝負を申し込む理由が、篠が終生愛したのは采女だという思い込みから、というところで一気に親近感が湧いた。 「それが許せん」という言葉が率直でいい。その痛みを抱えながら、それでも深く妻を慈しんだのだ。 それだけに、互いの力量を認め合って剣をとめた後、夫への想いをしたためた篠の手紙を采女から見せられた時の新兵衛の安堵と喜びが推察されて、 ふっと微笑がこみ上げる。 西島秀俊が扮する側用人の榊原采女の翳りもいい。養子の彼は、藩の不正に加担していた養父が何者かに暗殺され、愛し合っていた篠との婚約も養母の反対で破談となる。 複雑な事情を負いながら、それでも悪家老の石田玄蕃と対峙し、己に恥じぬ人生を貫こうとする。これはもう文句なしにかっこいい。 篠への純愛や、彼女と結婚した新兵衛への友情を保ち続ける寡黙な佇まいに惹かれる。 黒木華が扮する篠の妹・里美も本作の大きな魅力だ。 誰もが、今更なんのために新兵衛は舞い戻ったのだ、といぶかり警戒する中で、いささかの揺らぎもなく義兄の寄宿を受け入れる。 女性の芯の強さとしっとりした情感を併せ持った里美。自分の中に姉の篠がいるように感じる時がある、という彼女の言葉はなんと切ない愛の告白かと思う。 新兵衛も、時おり里美が篠に思える時がある、という。互いに想いを感じながらも、2人は決して一線を越えない。このストイックさが日本の愛の表現だとつくづく思う。 それだからこそ想いはいっそう深まるのだとも。 終盤、黒澤映画を思わせる豪雨の中での壮絶な斬り合い、そして街道での新兵衛と里美の別れ、・・・ストーリーは勧善懲悪のシンプルな筋立てだけれど、 重厚感のある時代劇だった。 【◎○△×】7 |