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【 新作映画 2018年 】

メアリーの総て


イギリス/ルクセンブルク/アメリカ
2017年  121分

監督
ハイファ・アル=マンスール

出演
エル・ファニング
ダグラス・ブース
トム・スターリッジ
ティーヴン・ディレイン
ベル・パウリー
ベン・ハーディ

   Story
 ゴシック・ロマンスの傑作として後世に多大な影響を与えた小説「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリーの波乱に富んだ半生を、 『少女は自転車にのって』のサウジアラビア人初の女性映画監督ハイファ・アル=マ ンスールが映画化。

 19世紀、イギリス。 小説家を夢見るメアリー(エル・ファニング)は継母との折り合いが悪く、 心配した父(ティーヴン・ディレイン)によってスコットランドの友人のもとに預けられる。

 ある日、詩の朗読会が開かれ、メアリーは “異端の天才詩人” と噂されるパーシー・シェリー(ダグラス・ブース)と出会う。

 2人は強く惹かれ合い駆け落ちするが、シェリーには妻子がいた。さらに出産した愛児の死がメアリーを失意のどん底に突き落とす。
 そんな中、継母の連れ子で同い年の義妹クレア(ベル・パウリー)の誘いで、 高名な詩人であり、社交界の寵児としても知られるバイロン卿(トム・スターリッジ)の館に滞在することになったシェリーとメアリーだが・・・。


   Review
 シェリーやバイロン卿といえばロマン派の詩人、 「フランケンシュタイン」は老科学者が作り出した人造人間の物語 (実際はフランケンシュタインはモンスターを作り出した青年科学者の名前)、 ・・・と私の知識は大まかでひどく曖昧だ。ましてこれらが相互に関連があるなんて夢にも思わない。

 本作で「フランケンシュタイン」を書いたのがシェリーの妻で、この小説誕生の背後に彼女の壮絶ともいえる人生が隠されているのを知って、ほんとに驚いた。

 映画は、メアリーが若くして亡くなった母の墓にもたれて、ノートを広げ、ペンを持って、夢想に耽るシーンから始まる。 これだけで彼女が早熟な少女であることが伝わってくる。
 とはいえ、メアリーは15歳。世の中の何たるかも、男女の何たるかも、まだ知らない。


 そんな彼女が、スコットランドの父の友人宅で詩人シェリーと出会い、恋に落ち、駆け落ちするのが16歳の時。
 一緒に行きたいという同い年の義妹クレアも連れてなのだから、無茶としかいいようがないけれど、これが若さの勢いというものなのだろうか。

 シェリーは当時21歳、すでに妻子がいる早熟さにも驚いた。

 彼の主張する “自由恋愛” は自らの放縦さを正当化する方便にしか見えないけれど、 吉田喜重監督の『エロス+虐殺』(70) の中で、アナーキスト大杉栄がやはり “自由恋愛” を標榜し、奔放な女性関係を持ったことを思い出す。
 自然な恋愛感情が強く抑圧された時代は、そこから解放されようとする時、国や時代が変わっても同じ思想が出てくるものなのだろうか・・・。

 メアリーは、シェリーと義妹クレアの関係や、シェリーの友人に言い寄られて拒否するとシェリーから偽善者呼ばわりされたりして、 彼の “自由恋愛” 主義に悩まされながらも、自分自身は「シェリーただ一人を愛する」という点で見事なほどに軸がぶれない。

 「選択には必ず結果が伴う」という彼女の言葉は、言い換えるなら「行動には責任が伴う」ということだ。 メアリーは単に早熟なだけでなく、年齢に比して驚くほど成熟した女性だったことが分かる。

 翌年メアリーは17歳で出産する。
 しかし貧窮に追われ、借金取りから逃げる途中、冷たい雨に打たれたのが原因で、生後1ケ月にも満たぬ赤子は死んでしまう。

 この時の深い悲しみと、以前シェリーとともに見た “死者を蘇らせる電流ショー” の記憶が結びついて、小説「フランケンシュタイン」に結実していったのだろう。

 彼女がこの小説を具体的に構想するのが、バイロン卿の愛人になっていたクレアの誘いで、シェリー、クレアとともにジュネーヴにある卿の館に滞在した時だ。
 長雨に降こめられたある夜、卿の提案で、彼の雇われ主治医ポリドリ(ベン・ハーディ)も交えて、一人ずつ怪奇談を書いて優劣を競うことになる。 いかにも奔放な遊蕩児の彼らしい思いつきだ。

 こうして自宅に戻って後、メアリーは「フランケンシュタイン」を書き上げる。わずか18歳の時だ。

 映画はこの後、出版に至るまでの紆余曲折、―女性であるために作者としてメアリーが正当に評価されない、女性に対する時代の制約―、が描かれる。 映画のメッセージはこの部分にこそあるのかなと思いつつも、私はむしろ、生き急ぐようなメアリーの人生に目を奪われた。

 10代後半のわずか2,3年に、人が一生をかけて経験するすべてを体験してしまったメアリー。
 彼女の才能に驚嘆する以上に、時計を早回ししたような生き方が痛ましい。同時に、それに潰されない強さにあらためて驚きと感動を覚えた。
  【◎△×】7

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