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【 新作映画 2019年 】

運び屋


2018年  アメリカ  116分

監督
クリント・イーストウッド

出演
クリント・イーストウッド
ブラッドリー・クーパー
イグナシオ・セリッチオ
ローレンス・フィッシュバーン
ダイアン・ウィースト
アリソン・イーストウッド

   Story
 巨匠クリント・イーストウッドが『グラン・トリノ』以来11年ぶりに監督・主演をつとめる人間ドラマ。
 「ニューヨークタイムズ・マガジン」に掲載された87歳という史上最高齢の運び屋の実話に基づいている。

 間もなく90歳になろうとする退役軍人のアール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、デイリリーというユリの栽培で知られた園芸家だ。

 仕事に情熱を燃やし家族は二の次にしてきたが、商売に失敗し、いまさら家族も振り向いてはくれず、孤独の日々を送っている。

 そんな時、車で荷物を運ぶだけという仕事を持ちかけられる。
 中身を見てはいけないという約束だが、じつは彼が運ぶのはコカインだった・・・。


   Review
 アメリカを縦断して何百キロも車を走らせる運び屋が90歳近い老人だなんて、そもそも設定が無理でしょう、と思ってしまうけど、 実在する人物がモデルだという。アメリカって面白いというか、つくづく変な国だなと思う。

 その人物、10年近く運び屋をして、逮捕時は87歳だったとか。 パンフレットによると軽い認知症がはいっていたというから、よくまー、事故を起こさなかったものだと呆れるほかない。
 もちろん、イーストウッドが演じる主人公アールは頭も口もしっかりしていて、認知症は皆無です。

 冒頭、1日しか咲かないデイリリーの品評会のアールは粋なスーツに身を固め、ご婦人たちには受けの良いジョークを飛ばし、 種の無料配布では握手攻め、とスターのような人気だ。

 ところが12年後、荒れ放題の彼の農園は差し押さえを食っている。インターネットの通信販売に押されて、昔なが らの彼の商法が成り立たなくなったのだ。
 業種を問わず、同じ憂き目の店頭売りや小売業のニュースを目にするだけに、現代という時代相を感じさせられる。

 羽振りのいい時は家族なんて眼中になかったアールが、結婚をひかえた孫娘のブランチパーティにやってくるのは、さすがの彼もこんな状況が心細くなったのだろうか。

 別れた元妻(ダイアン・ウィースト)には悪態をつかれ、娘(アリソン・イーストウッド)にもそっぽを向かれて、うろうろするサマがユーモラスだ。

 そんな時にある男から「ある町からある町に走るだけで大金になる」と声をかけられる。 私ならそんなうまい話は用心しちゃうけど、デイリリーの品評会で全米を駆け回り、ハイウェーを走るのはお手の物のアールはOKする。

 鼻歌交じりでハンドルを握るアールはじつに楽しそうだ。 昔、“A地点から、B地点まで〜” と漫才コンビの歌う歌が流行ったことがあったっけ〜、そんなことをつい思い出してしまうほどの気楽さだ。

 3回目の時に、自分が運んでるのは何なんだろうと好奇心を起こし、大量のコカインであるのを知っても止めなかったのは、 車を運転するだけのアールは、犯罪を犯しているという意識が薄かったのかも・・・。
 手にした大金で知人や家族にいいところを見せ、農園も買い戻し、上々気分のアールなのだ。

 麻薬取締局は間もなく、ふつうは10キロ単位で運ぶ麻薬を100キロ単位で運ぶ “凄腕” の運び屋がいることや、 よく使うルート、車は黒いバン、そしてタタ(爺さん)という通称を掴むけれど、まさか正真正銘の老人とは思わない。


 いかにも “らしい” ヒスパニック系の壮年の男を検問したり、アールが引っかかっても、煙に巻かれて見逃したり・・・。 それだけに空と陸から追い詰めて道路を封鎖し、物々しい警戒の中で、バンからヨロヨロの老人が出てきた時は、捜査官たちはさぞ脱力しただろうと思う。

 ベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)はたまたまカフェでアールと口を利いたりしていただけに、「あんたか」というのがばかに可笑しかった。

 外面(そとづら)ばかりよくて、長い間家族をないがしろにしてきた男が、 最晩年にやっと家族の大切さに気づき、絆を結び直すという、“家族の再生” がじつは本作のテーマだ。
 しかしそれがあまり簡単にアール本人や家族の言葉で語られるせいか、『グラン・トリノ』のようなしみじみした人生の哀感となって伝わってこないのが残念。

 アールの孤独感や居場所のなさ、人生への悔いなどが、(セリフではなく) ふとした行動や表情などから感じ取れたらもっと味わいが出たのではないかと思う。
  【◎△×】7

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