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【 新作映画 2019年 】

ブラック・クランズマン


2018年  アメリカ  128分

監督
スパイク・リー

出演
ジョン・デヴィッド・ワシントン
アダム・ドライヴァー
ヤスペル・ペーコネン
ローラ・ハリアー
トファー・グレイス
ライアン・エッゴールド

   Story
 『ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』などのスパイク・リー監督が、黒人警官が白人至上主義を掲げる過激派団体 kkk に入団し、潜入捜査を試みた実話を映画化。
 カンヌ国際映画祭では最高賞パルムドールに次ぐグランプリを、米アカデミー賞では脚色賞を受賞した。

 1970年代前半のアメリカ、コロラド州のコロラドスプリングス。
 署で初めての黒人警官ロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、配属された書類管理の仕事にうんざりしていた。

 署長に直訴してブラック・パンサー党の演説会への潜入を命じられたロンは、女性幹部パトリス(ローラ・ハリアー)と意気投合する。 パトリスは大の警官嫌い。ロンは身分を隠して彼女との親交を深める。

 情報部に移動したロンは、新聞広告で会員募集していた kkk 支部に電話し、白人のフリをして黒人差別発言をまくしたてると、幹部は「会いたい」という。
 白人警官フリップ(アダム・ドライヴァー)が替え玉として面接に赴くことになり、二人三脚の潜入捜査が始まる・・・。


   Review
 テーマは重いのに映画のタッチは明るいコメディ調、それなのに息もつかせぬ緊張感が続き、劇場を出た時夫と期せずして出た言葉が「見応えがあったね」だった。 今年のアカデミー賞作品賞は『グリーンブック』だったけれど、本作と甲乙つけがたいと思った。

 kkk とは、『ミシシッピー・バーニング』でも描かれていたように、黒人に対する暴力や殺戮(さつりく)行為で知られる白人至上主義団体だ。 クランズマンとはそのメンバーのこと。黒人のクランズマンなんてありえない、言葉自体が自己矛盾だ。ところがこれは実話に基づいた話なのだそうだ。

 署で初の黒人警官として採用されたものの、本格的な仕事を任せてもらえないロンは、思いつきで kkk の地方本部に電話をかける。kkk に共鳴する白人のふりをして、 電話口で黒人への罵詈雑言を並べ立てたのだ。同僚警官たちが驚いて様子を窺うのにくすっと笑いがこみ上げる。

 で、ころっと騙された kkk 支部長(ライアン・エッゴールド)がロンに会いたいといいだし、急遽、先輩警官フリップが替え玉となる。 つまり電話はロン、現場はフリップ、の二人一役というわけだ。
 よくもまー、こんな作戦を思いつき、実行したものだ、と呆れながらも成り行きに固唾を呑む思い・・・。


 フリップの正体がいつバレるかというハラハラ感に加えて、フリップをユダヤ人の設定にしたことで原作にはないヒネリが増えた。 というのは kkk は黒人だけでなく、ユダヤ人に対しても偏見を持つ組織だからだ。

 フリップをユダヤ人ではないかと執拗に疑う団体メンバーのフェリックス(ヤスペル・ペーコネン)と狂信的なkkk信奉者の妻コニーの存在はとても不気味だ。

 支部長ウォルターがはじめはフリップと電話で話した相手の声が違うと思ったり、 皮肉にも kkk の最高幹部デューク(トファー・グレイス)の警護を命じられたロンが (ロンは彼とも電話で話している)、 初対面のはずのデュークに「どこかで会った?」と聞かれたりするのにドキドキさせられる。

 ところで、ブラック・パンサーの女性幹部パトリスが警官を “ピッグ” と呼び、ロンが異議を申し立てても決して変えようとしないのが印象に残った。
 黒人差別をする警官がいる一方、そうでない警官もいる。 一人一人の個として見るのでなく、ひとまとめに特定の相手にレッテルを貼りステロタイプ化するのは、差別・偏見の始まりじゃないか・・・。最近の日本での嫌韓・嫌中 本ブームを思い起こし、自戒を込めてそう思う。

 リー監督はトランプ現大統領を彷彿とさせる人物を登場させて、人種間の分断を進める現政権を強烈に批判している。

 まず冒頭のボーリガード博士なる人物。演じるアレック・ボールドウィン、有名俳優の彼が最近はTV番組のトランプ大統領のそっくりさんで人気だそうだ。
 「黒人とユダヤ人と共産主義者が手を結んでいる」という陰謀論をぶち上げる博士にトランプ大統領を重ねるアメリカ人は多いんじゃないだろうか。

 次が kkk の最高幹部デュークその人。彼が繰り返す「アメリカ・ファースト」はもちろんトランプ大統領のスローガン。「アメリカを再び偉大にする」もそう。
 でもトランプ氏のいう “アメリカ” は、私がこれまで当然のように思っていたアメリカ国民全体ではなく、デュークのいう「白人ファースト」の意味かもしれない。 そう気づいて暗澹となった。

 映画は、「ホワイト・パワー!」と叫ぶ kkk と「ブラック・パワー!」と拳を突き上げるブラック・パンサーを対比させることで、 2つの団体は相手への偏見と憎悪という点ではたがいに共通した体質を持つことを示す。
 さらに kkk の攻撃ターゲットは黒人だけではなく、 ユダヤ人など白人の優越性を脅かすすべての存在であることもえぐり出して、“白人対黒人” の構図を抜け出した広い視点での問題提示をする。

 2017年のシャーロッツビルでの白人至上主義団体の集会も登場し、 70年代と現代アメリカの変わらぬ差別の現実を重層的にあぶり出す脚本やスパイク・リー監督の演出に脱帽した。
  【◎△×】8

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