HOME2000〜2010年2011〜2021年2022年〜午後の映画室 TOP




【 新作映画 2019年 】

記者たち 衝撃と畏怖の真実


2017年  アメリカ  91分

監督
ロブ・ライナー

出演
ウディ・ハレルソン
ジェームズ・マースデン
ロブ・ライナー
ジェシカ・ビール
ミラ・ジョヴォヴィッチ
トミー・リー・ジョーンズ

   Story
 イラク侵攻の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を持ち、イラク戦争のさなかに真実を追い続けた実在の ジャーナリストたちを描いた社会派ドラマ。

 2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生する。

 アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンが首謀者と断定したジョージ・W・ブッシュ大統領は、 2002年、イラクがビンラディンを匿っているとして、大量破壊兵器の保有を理由にイラク侵攻を宣言する。

 アメリカの大手メディアがそろって政府の情報をそのまま報道する中、 中堅新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)は、その情報に疑念を抱く。
 ジョナサン・ランデー(ウディ・ハレルソン)、ウォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)ら部下の記者に指示し、彼らは地道な取材を進めていく・・・。


   Review
 ブッシュ大統領が、大量破壊兵器を保有しているという理由でイラクへの軍事介入を宣言した時はずいぶんと驚いた。そんなことが戦争の理由になるの? と思ったからだ。

 日本の一主婦の感覚としては、大量破壊兵器つまり核兵器を保有しているといったって、アメリカだって持ってるじゃないの、他にも持ってる国はいくらでもある、 自分が持っていて、人が持ってるのがなんでそんなに騒ぎになるの、という感じだ。
 勿論、どの国も核兵器なんて持ってほしくない。それはアメリカだってイラクだって同じだ。

 だから、ほんとうにイラク戦争が始まり、フセイン政権が倒れ、イラク国内の混乱が収まるどころが拡大していく 様子をニュースで見て、何とはなしの不安を感じたりした。
 そして、どれだけ探してもイラクに大量破壊兵器などありません、と分かった時の虚を衝かれた感じ・・・。

 決してあったほうがいいと思ったわけではない。ただ、「ない」ものを「ある」といい立てて、戦争を起こすという、こんなバカバカしいことがまかり通ったという驚き。
 その結果、膨大な数のイラク人やアメリカ兵が死んでいったのだ。

 過去2度の世界大戦で本土が直接戦場となる体験をしなかったアメリカは、自国が攻撃対象になった時、過剰反応をする傾向があるようだ。 思い返せば真珠湾攻撃がそう。いまだに「リメンバー、パールハーバー」を唱え、日本への原爆投下を正当化する。

 日本人の私からすればすり替えとしか思えないけれど、同じすり替えがこのイラク侵攻でもなされたように思う。
 9.11 同時多発テロという自国本土への攻撃にカッとなった国民の愛国感情に沿うように、ブッシュ政権はイラク攻撃の口実をでっち上げたのだ。
 同時に、映画の中に「戦争はビジネスになった」という言葉が出てくるけれど、その側面も無視できない。

 それでもあの当時、アメリカ政府の発表する情報が捏造といったい誰が思っただろう。 NYタイムズ、ワシントン・ポストやCBS、ABCなど、新聞・テレビの大手メディアが軒並み報道したのだから。


 そんな中で、ナイト・リッダーという地方紙と契約する中堅新聞社だけが、政府は世論の誘導操作を行っているのではないか、と疑念を持ち、真相を追求し続けたというのだ。

 映画は展開が速く、字幕を読んでストーリーを追うのに少々苦労する。家族や恋人や負傷帰還兵やらエピソードが盛り込まれ過ぎなのも気になる。

 ナイト・リッダーの取材チームが政府の末端職員たちに地道な聞き込みを繰り返し、 微妙な言葉の端々から、彼らが上層部の動きに感じる違和感をキャッチして、真相に近づいていく様子がとても興味深い。 あと30分尺を伸ばしてでも、ここをじっくりと見たかったと思う。

 独自取材で得た政府広報と異なる情報を報道するナイト・リッダーは、脅迫メールが来たり、契約地方紙に掲載を 拒否されたり、さまざまな障害に遭う。

 しかし、ワシントン支局長ウォルコットをはじめ取材記者のランデー、ストロベルたちは始終ジョークを飛ばし合って余裕がある。

 やっていることに自信と信念があるのだと思う。
 体制批判の目を持つのがジャーナリズムの基本と思う私の目には、そんな彼らの姿が頼もしく映る。

 元従軍記者の伝説的ジャーナリスト、ジョー・ギャロウェイ(トミー・リー・ジョーンズ)を招いて取材体制を強化した時、ウォルコットが部下たちに語る言葉がかっこいい。
 「他のメディアが政府の広報に成り下がるなら、成らせておけばいい。我々は、我が子を戦争に行かせる者たちの味方なのだ」。

 これこそがジャーナリスト魂というものだろう。
 新聞、テレビを名指しでフェイクニュース呼ばわりするアメリカ現大統領 (2019年当時)。日本では、与党一強をいいことに陽に陰にメディアに圧力をかける政権。 そんな現状を見るにつけ、ジャーナリストの原点を痛切に感じさせられる映画だった。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system