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【 新作映画 2019年 】

誰もがそれを知っている


スペイン/フランス/イタリア
2018年  133分

監督
アスガー・ファルハディ

出演
ペネロペ・クルス
ハビエル・バルデム
リカルド・ダリン
バルバラ・レニー
エドゥアルド・フェルナンデス

   Story
 身内の結婚式で起きた誘拐事件をきっかけにほころび始める家族の秘密を描いたヒューマン・サスペンス。
 『別離』『セールスマン』で2度のアカデミー外国語映画賞に輝いたイランの名匠アスガー・ファルハディ監督が、オール・スペインロケに挑んでいる。

 アルゼンチンに暮らすラウラ(ペネロペ・クルス)は、妹の結婚式に出席するために、娘と幼い息子を連れて、スペインの田舎町に帰省する。

 久々に家族に会い、ブドウ農園を営む幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)とも再会するが、祝福に包まれた結婚披露宴のさなか、娘イレーネが行方不明となる。

 ほどなく多額の身代金を要求するメッセージが届き、知らせを聞いたラウラの夫アレハンドロ(リカルド・ダリン)もアルゼンチンから駆けつける。
 パコは時間稼ぎに奔走し、その間に長年隠されてきた家族それぞれの事情があぶりだされてくる・・・。


   Review (ネタバレあり)
 妹アナの結婚式に出るために、アルゼンチンから里帰りしたラウラ。 映画冒頭、ラウラはアナが運転する車から、携帯電話で夫アレハンドロに無事スペインに着いたことを報告し、代わった子供たちが父親とおしゃべりする。
 賑やかで睦まじい家族の様子、そしてみなの浮き立った気分が伝わってくる。実家に着いたラウラが家族と再会の抱擁を交わす様子からもそれは表れている。

 教会でのアナの結婚式、そしてお祝いに集まった村人たちが笑いさざめきながら繰り広げる披露宴は、いかにもスペインらしく陽気で幸福感にあふれている。
 そんな中で事件が起こる。イレーネがいなくなり「誘拐した。警察に知らせたら殺す」というメールが届くのだ。

 多額の身代金は父親のアレハンドロがたやすく用意できるだろうと思われたけれど、じつは彼は事業に失敗し、失業中であることが分かる。 こうして映画は一転、不穏な空気に包まれる。

 そういえば、序盤の流れの中にもいくつか気になる台詞やシーンが埋め込まれていたことに気づく。

 たとえば村の女たちは、ラウラやアナを「玉の輿」、村に残って寂れた宿屋を営みながら老父の面倒を見る長姉マリアナを「貧乏くじを引いた」と陰口を叩くのだ。

 マリアナの娘で幼子を抱えたロシオは、外国に出稼ぎに出ている夫ガブリエルとの仲がうまくいかず、別れようと思っている、とラウラに打ち明ける。

 さらに、かつてこの辺り一帯の広大な土地の所有者だったラウラの老父が賭けごとで土地を手放し、村人を逆恨みしていることが分かる。 ・・・こうして家族の抱える問題が徐々に明らかになり始める。

 脅迫メールはラウラだけでなく、ブドウ園を営むパコの妻ベア(バルバラ・レニー)にも届く。
 なぜだか分からない、とベアは首を傾げるけれど、そんなことから時にラウラよりも先にパコが情報を得て動きだしたりもする。 この誘拐はむしろパコ (に金を出させようという) をターゲットにしたものではないか・・・、そんな疑問がじわり浮きあがる。

 ラウラとパコがかつて恋仲だったのは村では周知のことだけれど、2人の間にはもっと深い秘密があり、それを誘拐犯は知っているのではないか・・・。 ラウラの姉婿の友人で、事件の相談役を引き受けた元警官の「犯人は身近にいる人間かもしれない」という言葉が不気味だ。


 パコを演じるハビエル・バルデムがいい。結婚披露宴の夜、雨の中で軽くステップを踏んで「オレー!」と拳を突き上げてみせるひょうきんさ。 誘拐事件が起こってからは、元雇い主であるラウラの実家のために献身的に奔走し、手塩にかけて作りあげたブドウ園を売り払って身代金を用意する。
 妻ベアを愛し、かつて愛したラウラにも誠実なパコという男の真実が、薄皮をはぐように見えてくる。

 妻は去り、ブドウ園も失ったけれど、イレーネは無事戻った。
 やるべきことをやったのだ、パコの胸に悔いはないはず・・・、と思いつつも、抱き合うラウラとアレハンドロの傍らに立つ彼の顔を見ると、 それだけとはいえない思いが湧いてくる。

 イレーネはパコとの間の子、という秘密をラウラと分け合う当事者でありながら、けっきょく彼はラウラ一家にとっては部外者にすぎない。なんともやるせない現実だ。 所在なげなパコの風情・・・、ハビエル・バルデムがほんとにうまい。

 終盤、突如浮上するラウラの姪ロシオが抱えた秘密 (誘拐犯は夫ガブリエル) と、それに気づいた母親マリアナが映画の結末を重く苦いものにしている。 明るく賑やかに始まる序盤との対照が鮮やかだ。
  【◎△×】7

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