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【 新作映画 2019年 】

さらば愛しきアウトロー


2018年  アメリカ  93分

監督
デヴィッド・ロウリー

出演
ロバート・レッドフォード
ケイシー・アフレック
シシー・スペイセク
ダニー・グローヴァー
トム・ウェイツ
チカ・サンプター

   Story
 俳優、監督、プロデューサーとして第一線で活躍し続けてきたロバート・レッドフォードが引退を表明し、俳優としての最後の出演作として話題を集めたクライム・ドラマ。
 生涯で16回の脱獄を成功させ、伝説のアウトローとして名を馳せた実在の老銀行強盗を演じている。

 1980年代初頭。アメリカ各地で、チラリと拳銃を見せるだけで誰ひとり傷つけることなく目的を遂げる銀行強盗がいた。
 彼の名はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)、74歳。

 仲間のテディ(ダニー・グローヴァー)、ウォラー(トム・ウェイツ)とともに入念に下見をし、実行の手口はどこまでも紳士的、という風変わりな強盗だ。

 事件を担当するジョン・ハント刑事(ケイシー・アフレック)は、そんなタッカーの流儀に魅了されていく。 一方タッカーは、偶然出会った未亡人ジュエル(シシー・スペイセク)との間にロマンスが生まれ、満ち足りた静かな暮らしをしていたが・・・。


   Review
 客足が落ち着いたかな、と思う頃に出かけたのに、行列ができるほどの人気に驚いた。 本作を最後に引退を表明しているとはいえ、80歳を超えたレッドフォードの引退作を見ようという人がこれほど多いとは・・・。

 レッドフォードは溜め息が出るほど端正な美男で、しかも主演級のスターなのに、意外に地味な俳優だといつも思う。 俺が、私が、のハリウッド・スターには珍しく、共演者の引き立て役に回るからだ。

 『明日に向って撃て!』『スティング』ではポール・ニューマン、『大統領の陰謀』ではダスティン・ホフマン、 共演者が女優なら『追憶』のバーブラ・ストライサンド、『華麗なるギャツビー』のミア・ファロー、『出逢い』のジェーン・フォンダ、『愛と哀しみの果て』のメリル・ストリープ、 ・・・と枚挙に暇(いとま)がない。
 脇に回ってかつ悠々とマイペースを保ち、地味にキラリと光る、そんな不思議な印象だ。

 それでも主演者独り占めの『大いなる勇者』では、寡黙な静けさ、やさしい温かさ、激しさと沈着さ、とすべてを 秘めた佇まいが印象的だった。いざとなるときっちり存在感を刻印するところは、演技力の幅と確かさを感じさせる。

 そんなレッドフォードの引退作は実在の高齢の銀行強盗フォレスト・タッカーをモデルにした話だ。
 最近、超高齢者の犯罪の映画が多いなぁ・・・、これも世相の表われだろうか。といってももちろん違いはある。

 『人生に乾杯!』(07) や『ジーサンズ、はじめての強盗』(17) は暮らしに困って止むに止まれず犯罪に手を出し、 『運び屋』(18) は “ただ運ぶだけ” といううまい話に乗っかる、という具合だ。
 一方、本作は銀行強盗が好き、という変な男が主人公だ。もう十分稼いだから何もしなくても暮らせるのに、それじゃ退屈だ、生きてる甲斐がない、とばかりに悪事に励む、 飄々(ひょうひょう)としたお爺さん強盗だ。

 もともと人生を楽しむための犯罪だから、荒っぽいことはしない。拳銃をちらりと見せるだけ。
 弾は込めてない (撃つ気がないのだから必要がない) けれど、窓口の行員はそうは思わないから、言われた通りせっせと鞄に金を詰める。

 強盗と思えば怖いけど、老人の優しげな微笑に誘われて、つい鞄に金を入れてしまう。こんな強盗シーンが摩訶不思議で面白い。 後で行員たちが「(犯人は) 紳士的だった」「礼儀正しかった」と語るのに笑いながらも納得してしまう。

 生き生きと楽しそうに強盗に励むレッドフォードだけれど、共演者のケイシー・アフレックとシシー・スペイセクを上手に引き立てている辺りはいかにも彼らしい。


 まず事件を担当する刑事ハント役のアフレック。仕事に疲れ、FBIの介入で捜査から外されても怒る気になれず、それでもやっぱり仕事は好き。 一人でコツコツ容疑者のタッカーを調べていく。
 そんなアンニュイと粘り強さが同居した魅力的な刑事像を作り出している。

 ダイナーのトイレでタッカーとハントが鉢合わせするシーンが印象的だ。 相手が刑事と気づいたタッカーが「犯人は捕まりそうかい」と高をくくったように聞き、「シャツにシミなんかついてると優秀に見えないよ」とチョチョッと拭き取ってやる。

 相手がタッカーと察したハントはすかさず「もうすぐだよ。僕は優秀だからね」とやり返す。
 小さな火花が飛び、この出会いは小気味よくピシッとやられたタッカーの敗け。

 恋人ジュエルに扮するシシー・スペイセクもチャーミングだ。ジュエルとタッカーのやり取りはそれだけで人生の深々した味わいを醸し出し、一見に値する。
 引退作だからと意気込まず、軽く流しつつも風格を感じさせるレッドフォードらしい佳作だ。
  【◎△×】7

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