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【 新作映画 2019年 】

ガーンジー島の読書会の秘密


2018年  イギリス/フランス  124分

監督
マイク・ニューウェル

出演
リリー・ジェームズ
ミキール・ハースマン
キャサリン・パーキンソン
ペネロープ・ウィルトン
ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ
マシュー・グード
トム・コートネイ
グレン・パウエル

   Story
 第2次世界大戦中にドイツに占領されていたイギリス領ガーンジー島の読書会をめぐる人間ドラマ。
 大戦直後、取材のためにこの島を訪れた女性作家が、読書会のメンバーと交流を重ねる中で、自らの人生の指針を 見出すさまが描かれる。

 第2次世界大戦直後、1946年のロンドン。

 作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)はかつて所有していた一冊の本をきっかけに、ガーンジー島の住民、ドーシー(ミキール・ハースマン)と手紙を交わし始める。

 彼の所属する「文学とポテトピールパイの会」という読書会に興味を持ったジュリエットは、会に関する記事を書こうとガーンジー島を訪れる。

 しかし会の発案者エリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)の姿はなく、メンバーたちも会のことを書かれるのを快く思わない。 とくに一番の年長者アメリア(ペネロープ・ウィルトン)はきっぱりと拒否する。

 ドーシーに島の案内を頼み、メンバーのエバン(トム・コートネイ)、アイソラ(キャサリン・パーキンソン)と親交を深めるジュリエットだが・・・。


    Review
 映画のPR文や紹介文をそのまま受け取って、読書会の秘密をめぐるミステリーと思うと間違えるかもしれない。

 夫は、表向きは読書会だけどじつはナチ転覆を図る陰謀グループの集まり、みたいなものを期待して「何も起こらなかった」とがっかりしている。 ドンパチ映画好きの彼らしくて思わず笑ってしまったけど、じつは私も会の創設者エリザベスをめぐる秘密はもっと思いがけないものと思っていた。

 しかし予想とは違っていたけれど、坦々としたタッチの中で一人の女性の心の変化と成長を描いた本作は味わい深い映画だった。

 主人公ジュリエットを演じたリリー・ジェームズをはじめて見たのは『ベイビー・ドライバー』(17) だ。 正統派の美人ではないけれど愛らしさと芯の強さを感じさせてチャーミングだった。
 本作はその魅力が全開、彼女なしでは映画はこれほどの印象を残さなかったかもしれない。


 ジュリエットがガーンジー島の読書会のメンバーたちと交流を重ねていく中で、彼女の心が深く彼らの中に溶け込んでいくのが、 まるで映画を見ている私自身の体験のように感じられる。途中でふと、「彼女、このままじゃ現実生活に戻れないんじゃないかな」と思ったほどだ。

 現実生活というのはロンドンでの作家としての暮らしのことだ。 そして、ジュリエットをロンドンのリアルにつなぐのが、編集者シドニー(マシュー・グード)の安定した存在感だ。

 もちろんガーンジー島だって現実には違いない。
 しかしここでの暮らしが彼女にとって心の旅路が行き着く桃源郷に見えてくる瞬間があり、 そのマジックから抜け出せなくなるんじゃないかな・・・、そんな思いが胸をよぎる時が何度もあったのだ。

 映画序盤でサラリと描かれるだけだけれど、大戦で両親を失ったジュリエットは、その傷から立ち直っていないように思える。 それが作家としてそこそこ成功を収めても、自分は本当は何が書きたいのか、進むべき方向が掴めない原因になっているようだ。

 アメリカ人のセレブな恋人マーク(グレン・パウエル)との関係も、それなりの幸せを感じはしても、心の空白が しっくりと埋まらない距離を感じていたのではないかと思う。
 しかしガーンジー島で読書会のメンバーに会い、交流を深める中で、ジュリエットは不思議なほどに心が癒やされていく。

 徐々に明らかになるエリザベスの潔く勇気ある生き方と、それを肯定し秘密を守ろうとし続ける会のメンバーたち・・・。
 ジュリエットは彼らと戦争の傷を共有しつつ、かつ人はそれに負けない強さを持っていることを教えられたのだと思う。

 映画としてはジュリエットがロンドンに帰ったところで終わってもおかしくはなかったと思う。
 彼女には今では作家として書くべきテーマがはっきり見えている。何より「書きたい」という内から湧きあがる欲求がある。 彼女にとって真の人生が今やっと始まったと思えるからだ。

 しかし物語はジュリエットが再びガーンジー島に戻り、島に来るきっかけを作ったドーシーとの恋が実るところまでを描いている。 ドーシーを演じるミキール・ハースマンは、“007” をやっても似合いそうな精悍さを秘めた2枚目、リリー・ジェームズとぴったりの組み合わせだ。

 エリザベスの遺児キットを引き取った暮らしは、穏やかな日差しを浴びて、映画のラストに相応しいのどかさだ。
 ジュリエットはこれからはガーンジー島とロンドンをいったり来たりして、作家と家庭生活を上手にこなしていくだろう。そんなことも想像したりして、幸せな気分になった。
  【◎△×】7

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