HOME2000〜2010年2011〜2021年2022年〜午後の映画室 TOP




【 新作映画 2020年 】

ビッグ・リトル・ファーム
理想の暮らしのつくり方



2018年  アメリカ  91分
<ドキュメンタリー>

監督
ジョン・チェスター

出演
ジョン・チェスター
モリー・チェスター

   Story
 ロサンゼルス郊外の荒れた農地を、試行錯誤を繰り返しながら、果実や野菜が実る豊かな大地に変えていったチェ スター夫婦の8年の奮闘を記録したドキュメンタリー。

 ジョン・チェスターはテレビ番組の監督やカメラマンとして25年の経歴を持つ。妻のモリーは料理研究家で、料理ブロガーだ。

 ロサンゼルスに住む2人は殺処分寸前だった犬を引き取り、トッドと名付けて一緒に暮らし始めるが、 トッドがのべつ吠えまくるためにアパートから追い立てを食ってしまう。

 2人は郊外に200エーカーの土地を購入し、体にいい食べ物を育てる農園を作ることにする。水は乏しく、土は固い。 荒れた農地に移り住んだ2人の、大自然のメッセージに耳を傾けながらの奮闘が始まる・・・。


   Review
 何となくのどかな農園生活ドキュメンタリーをイメージしていたら、のっけが山火事だ。 モリーが慌ただしく荷物を取りまとめ、動物たちを安全なところへ避難させなくちゃといっている。
 こんな危急の時にジョンは何してるの?
 あ、そうか、今このバタバタを撮影しているのか、とこっちも心は大慌てしながら、フッと可笑しくなる。

 のどかどころか農園経営はこんな調子で次々と難題が持ち上がり、見ているだけで心がめげそうになる。
 それなのにほんとにどうしたことか、この映画は楽しい。まず農園で飼われている (というより、共に暮らしている) 動物たちの個性がユニークだ。 ・・・といっても本人たちは自然の中でそのまま生きているだけなのだけど。

 一番手は豚のエマ、初産で生んだ子豚がなんと17匹。 もう終わり? と思うと次の仔がポロリ、「一体何匹生むつもりだ」と介助のジョンが音(ね)を上げる始末だ。

 高熱を出し、食欲をなくして死にかかった時、17匹の子豚が乳房に群がるとのっそり立ち上がって餌を食べだしたのには驚いた。
 野生の母性の逞しさに脱帽。

 エマの親友は鶏のグリーシーだ。鶏仲間では外れ者なのに、何故かエマとは気が合って、いつも一緒にいる。
 だから農園の飼い犬カヤに噛み殺された時はちょっとショックだった。

 でもジョンは「一生お前を許せないかも知れない」といいながらも、決してカヤを激しく叱りつけたりはしない (しおらしくお座りして叱られているカヤに、またクスリ)。
 犬の個性に気づかなかった自分を反省し、ジョンは双子のもう1匹 (ゴメン、名前を失念) に鶏番を任せる。

 このエピソードでも分かるように、ジョンとモリーはじつに辛抱強い。
 そして自然の流れ (生態系サイクルあるいはシステムといってもいい) に逆らわない。

 印象的なのは、果樹園に凄まじい数のカタツムリが発生し、果実を食い荒らした時だ。
 取っても取ってもキリがない。しかしジョンは冷静に観察を続け、池の魚を食い荒らすアヒルがじつはカタツムリが好物だと気づく。 そしてアヒルを果樹園に誘導してカタツムリを駆除する。

 せっかく農園の卵が評判を呼んで人気商品になったのに、コヨーテが鶏を襲い何百羽と殺してしまう。
 地味が豊かになった畑にはホリネズミが増えて、地面に巣穴を掘る。地中の空気の流通が良くなる反面、根を噛み切って野菜を枯らす。

 しかしコヨーテの好物がホリネズミだと分かると、鶏を囲いの中に入れて、コヨーテをホリネズミが集まったところに誘い込む。

 大発生したアブラムシも辛抱強く待つうちに、やがてテントウムシがやって来て片付けてくれる。
 こうしてジョンとモリーは殺虫剤も農薬も使わずに、天敵を利用して、生態系を壊さないようにしながら収穫と自然のバランスを作っていく。

 山火事、暴風、旱魃、豪雨と洪水、と彼らを襲う困難は尽きないけれど、そんな時2人が頼るのが自然農法家のアラン・ヨークだ。 彼は自然の多様性の重要さを訴え、さまざまな生き物がそのまま生きる自然は豊かで、災害にも強靭だという。

 その彼がガンで亡くなった時、ジョンがその死を悲しみながらも、なんでさっさと逝っちゃうんだ、と愚痴をこぼすのについクスリ。 ジョンとモリーはアランの死をきっかけに、こんな時、彼ならどうしただろう、と自問自答しつつ、自然農法家として自立していく。

 カメラマンとして25年の経験を持つジョンの撮影は、映像が繊細でかつ力強く、そしてとても美しい。
 どんな課題や困難も信念を持って取り組めばきっと解決できる、そんな意思がほのぼのした語り口から伝わってくる映画だった。


  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system