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【 新作映画 2020年 】

プラド美術館 驚異のコレクション


2019年  イタリア/スペイン  92分 
<ドキュメンタリー>

監督
ヴァレリア・パリシ
 
出演
ジェレミー・アイアンズ

   Story
 スペイン・マドリードに1819年にオープンし、2019年に開館200年を迎えたプラド美術館にカメラが入ったドキ ュメンタリー。

 歴代のスペイン王室が集めたベラスケス、ルーベンス、ゴヤ、エル・グレコなど世界屈指の名画を収蔵・展示する美術館の魅力を紹介する。

 15世紀、イサベル女王が最初の1点を購入してから、1868年女王イサベル2世の治世の終わりまで、 歴代のスペイン王室が情熱を燃やして収集し続けた美術品は、8700点にも及ぶ。

 館長やベテラン学芸員の解説や修復士の作業風景などが紹介され、プラド美術館の歴史と集められた名画の魅力に迫る。 イギリスの名優ジェレミー・アイアンが案内役を務め、名画の味わいを深めている。


   Review
 ずいぶん昔のことだけど、マドリッドにいった時にプラド美術館に入ったことがある。「裸のマハ」を見るのが目的で、広い館内を探し回った。

 当時はまだ日本では「裸のマヤ」といっており、監視員に “ネイキッド・マヤ” はどこかと聞いても通じない。
 そのうちふと、そういえば最近は “マヤ” でなくて “マハ” というらしいと気づき、“ネイキッド・マハ” と言い直してやっとたどり着いた。

 そんなこんなでプラド美術館そのものにはほとんど注意が向かず、本作でその壮麗さに驚いた。 もっとじっくり見ておけばよかった、もったいないことをしたな、と今にして思う。

 映画は美術館のそもそもの始まりから説き起こす。
 そこでまず語られるのは、 神話的世界を思わせる森林や修道院の映像に重ねて、スペインを “太陽の沈まぬ国” へと押し上げ、美術館の王室コレクションの歴史を形作ったカール5世の生涯だ。

 戦場を勇壮に駆け巡った皇帝は体調の不良を悟った晩年 (といってもまだ50代半ばなんですよね)、ユステの修道院にこもり、 ティツィアーノの「ラ・グロリア(栄光)」を見ながら息を引き取る。

 語りに合わせてカール五世の肖像画や「ラ・グロリア(栄光)」がスクリーンに映し出される。

 絵画の素晴らしさに引き込まれながら、それ以上に私の心をとらえたのは、何といってもイギリスの名優ジェレミー・アイアンズのナレーションだった。

 全編を通して映画の語り手、ナビゲーターを務め、大仰ではないさりげない語り口は舞台劇を見るような深さを醸し出す。響きのよい声に引き込まれる。 それに相変わらずダンディで渋い。美しい歳の取りかたをしているな、とあらためて感服。

 美術館の館長、学芸員、修復士、さらに建築家や女優、写真家などが登場して収蔵絵画についてさまざまなエピソードを披露する。それがなかなかに面白い。

 例えば女優マリーナ・サウラは、芸術家である父が愛する3人の娘たちをよく「三美神」と呼んでいたという。 そこで胸をときめかせてルーベンスの名画を見に行った、と彼女、笑いながら手をひらひら~。
 そこに「三美神」の肉感的な (有り体にいうと、デカい) お尻がアップ。思わず吹き出した。

 「モナリザ」が2枚あるという話、といっても模写ではない。じつはモデルを前にダヴィンチと弟子が並んでそれぞれに描いたのだという。つまりどちらも本物。
 とはいえ映画で見た感じでは、目の辺りの印象が若干違う。ダヴィンチのほうが柔らかい。背景もどうやら違うらしい。2枚を並べてじっくり見たかった。


 ほかにも「着衣のマハ」もよ~く見ると裸の線が透けて見えるとか、 私が (正しい名前を知らなくて) 勝手に “王女マルガリータ” と呼んでいたベラスケスの「ラス・メニーナス」の、 絵の隅でワンコをいじめている幼女はじつは大人の小人の女性なのだとか、へぇ~と思う話がたくさん出てくる。
 惜しむらくはカットの切り換えが速く、絵をちゃんと見た気がしないこと。

 さらに、カメラがなめるように絵をアップし (ふだん美術館ではこれほど絵に近づくことはできない。本作ならではの貴重な体験だ)、 繊細巧緻な筆のタッチに驚かされる。
 アップの後は少し引いて全体をゆっくりと見たい気持ちになるだけに、切り換えの速さに欲求不満が起きてくる。

 美術館の成り立ちからスペイン内戦時のコレクションの疎開など激動の歴史も紹介され、収蔵名画もびっくりするほど豊富なので無理もないとは思いつつ、 欲ばりすぎ~、テーマを絞ってほしい、そして絵そのものをじっくり見せてほしい、と思った。
  【◎△×】6

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