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【 新作映画 2021年 】

レンブラントは誰の手に


2019年  オランダ  101分
<ドキュメンタリー>

監督
ウケ・ホーヘンダイク

登場人物
ヤン・シックス
ターコ・ディビッツ
エルンスト・ファン・デ・ウェテリンク
エリック・ド・ロスチャイルド
バックルー
トーマス・S・カプラン

   Story
 『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(08)、『みんなのアムステルダム国立美術館へ』(14) のウケ・ホーヘンダイクが監督と脚本を手掛けたドキュメンタリー。
 オランダを代表する偉大な画家レンブラントの作品に焦点を当て、彼の絵に魅せられた人々が織りなすさまざまな エピソードを追う。

 オランダの貴族の家系に生まれた若き画商ヤン・シックスは、ロンドンのオークションに出品された「若い紳士の肖像」に目を止める。

 レンブラントの真筆だと直感した彼は安値で落札。本物ならば44年ぶりの新たな作品の発見となるだけに、美術界は騒然となる。

 一方、フランスの富豪ロスチャイルド家が所有するレンブラントの2点の絵画『マールテンとオープイェ』が、売りに出される。 約200億円という高額の絵を獲得するために、ルーヴル美術館とアムステルダム国立美術館が動き出す・・・。


   Review
 レンブラントの絵を巡っていくつかのエピソードがモザイクのように組み合わされて、映画は進行していく。
 まず私が興味を惹かれたのが、スコットランドの貴族バックルー公爵の所蔵する「読書する老婦人」だった。

 アップもアップ、超クローズアップで捉えられた俯き加減の “老婦人” の表情・・・! 一心に本を読みふける姿は、絵筆を取るレンブラントがそこにいるはずなのに、 微塵もそんな気配を感じさせない。

 ひょいと目を上げ、こちらに目を止め、そしてまたスッと本に目を落とす・・・。ふとそんな錯覚すら起きる。
 伏せた眼の中にポツンと光る瞳が生々しいほどリアルだ。レンブラントの技巧の凄さをこれほど感じさせられたことはない。

 バックルー公爵のこの絵に対する執着が並外れている。「こんな美しい女性がこの世にいるだろうか」「もっと身近に彼女を感じたい」「彼女と一緒に本を読むのが夢」と、 絵の掛け場所を変えようとする。

 というのも先祖が強盗団に襲われたことがあるとかで、それ以来、絵はすぐには手の届かない場所に掛けられているからだ。
 アムステルダム国立美術館の絵画部長ターコ・デイビッツ相手に、あっちに移しこっちに移し、光の加減や眺め具合を確かめる。

 デイビッツはあわよくばこの名画を美術館で購入したい。でもバックルー公爵は絶対手放さないでしょうね~。

 レンブラントってこういう個人所有がけっこう多いらしい。こういう名画を独り占めってどういう気持ちなんだろう。特権階級の我が侭という気がしないではないけれど。
 そういう意味では、2枚一組の肖像画「マールティンとオープイェ」を巡る争奪戦はなかなか興味深かった。

 もとはフランスの富豪ロスチャイルド男爵が所蔵していただけに、フランスとしては国外に流出させたくない。 一方、レンブラントの故国オランダとしてはこの際ぜひ自国で所有したい。
 そこでルーヴル美術館とアムステルダム国立美術館の争奪戦が始まるのだけど、約200億円という高値だけに、1つの美術館では手が出ない。

 フランス側は政治家まで乗り出し (この時のアムステルダム国立美術館館長の「フランス文化大臣に芸術が分かるのかな」という皮肉が面白い)、国家レベルの騒ぎになる。

 結局2つの美術館の共同購入で決着が着く。“名画は誰のもの?” という観点からは、これは一般の美術愛好者にとっては見る場所や機会が増えることになり、とてもいい。

 とはいえ、2つの美術館にとっては定期的に絵を移動させ、修復の仕方もそれぞれのやり方があり・・・、とやや こしいことになりそうだ。
 アムステルダム国立美術館館長の何とも言えず悔しそうな顔にプフッとしてしまった。

 本作にミステリーの趣きを加えるのが、新たに発見された「若い紳士の肖像」がレンブラントの真作か否かを巡る顛末だ。

 この騒動の主人公はオランダ貴族の家系出身のヤン・シックスだ。
 先祖がレンブラントの有力なパトロンの一人で、彼によって描かれた初代の肖像画を代々受け継いできた家に生まれた野心に燃える若き画商だ。

 彼の依頼を受けたレンブラントを専門とする美術史家ファン・デ・ウェテリンク教授やアムステルダム国立美術館スタッフの鑑定は、 はじめは「否」の気配が強いだけにかなりハラハラさせられる。
 父親に美術を見る目は「科学だ」と理屈をこねていたヤン・シックスが、最後の決め手として「本能的に分かる」を持ち出したのは可笑しかった。

 名画収集家の富豪カプランが「不幸なことに自分には金と情熱がある」と豪語するのにも、所有すること自体が目的みたい、とついクスリとさせられる。

 レンブラントがモデルの上辺(うわべ)を見抜いて、その奥にひそむ真実を描き出したように、 本作も名画を巡る人々の人間臭さが赤裸々に描き出され、なかなか面白かった。
  【◎△×】7

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