HOME雑感 LIST午後の映画室 TOP




【 映画雑感 】No.417

すれ違いのダイアリーズ


2014年  タイ  110分

監督
ニティワット・タラトーン

出演
スクリット・ウィセートケーオ
チャーマーン・ブンヤサック
スコラワット・カナロット

   Story
 美しい自然の中で、一度も会ったことのない前任の女性教師と新任の青年教師が、日記を通して心を通わせ、影響 し合い、たがいに成長していく姿を描いた青春ドラマ。

 レスリング一筋だったソーン(スクリット・ウィセートケーオ)は、電気も水道もなく、携帯電話もつながらない奥地の水上学校に、新任教師として赴任する。

 教師経験のない彼は失敗続き。そんなある日、一冊のノートを発見する。
 それは前任の女性教師エーン(チャーマーン・ブンヤサック)が心のうちを綴った日記帳だった。

 自分と同じように教育に悩み、孤独をかみしめるエーンの正直な気持ちに触れて、いつしかソーンは会ったことのないエーンを身近に感じはじめる。


   Review
 予告編で見た湖面に浮かぶ水上小学校の佇まいに惹かれて、必ず見ようと思っていた。

 撮影自体はボートハウスを立て直した学校で行われたそうだけど、チェンマイから4時間ほどの場所にモデルとなった水上小学校があり、 映画の中で描かれるさまざまな出来事 〜 トイレに溺死体が漂い着いたり、教室にヘビがいたり、嵐で学校が壊れたり 〜 も実際にあったことだそうだ。

 日記を通して見知らぬ相手に惹かれる、という設定も製作スタッフの友人が実際に体験したことだそう。ファンタ ジーっぽい物語のベースに実話があるというのに惹かれる。

 レスリング選手だったソーンがやっと見つけた職が、なり手のいない水上小学校教師。
 赴任したのはいいけれど生徒は誰も来ない。水上ボートで「先生が来ましたよー」「学校が始まりますよー」とふれて回るシーンには笑ってしまった。

 演じているスクリット・ウィセートケーオはタイのトップ・アイドル歌手なのだとか。陽気で元気一杯、分けへだてのないこだわりのなさが魅力的だ。

 馴れぬ田舎暮らしに初めての教師の仕事。
 悪戦苦闘の中でソーンは前任者エーンが忘れていった日記を見つけ、 それを読んで、子供たちが何かにつけて持ち出す「エーン先生」も自分と同じに悪戦苦闘していたことを知る。

 大いに共感して、同じ日記に自分の気持ちを書きつける。1年後、ソーンが去った後に再赴任してきたエーンがそれを読む。
 こうして2人は互いに見知らぬ相手に想像を膨らませ、思いを馳せるのだけれど、それぞれが相手を探して訪ねて ゆくくだりが面白い。

 ソーンの頼りは生徒に見せられたエーンの写真 (なんと星のタトゥーの入った腕しか写ってない) と生徒と一緒に付けた背の高さを示す柱のキズだ。
 こんな具合だから、超至近距離に近づきながら気づかないまま行き過ぎてしまう。

 エーンはソーンの住んでいたアパートを探し当てるけれど、すでに引っ越した後。 顔を出したソーンの元恋人は早くも新しい恋人と同棲中で、「行く先は知らない」と素っ気ない。

 すれ違いながらも、日記と子供たちとの触れあいを通して、2人はそれぞれに影響し合い、変化してゆく。
 ソーンはエーンの優秀な教師ぶりに自分の基礎学力のなさを自覚し、教師としての心構えを教えられ、学校で勉強し直そうと思う。ノー天気なソーンの成長が微笑ましい。

 一方、エーンの変化を示すエピソードが印象的だ。学校に来なくなったチョーンを迎えに行って、「勉強すれば何にでもなれる」と諭すと、 チョーンは「漁師になりたい。だから学校に行くより (漁師の) 父親の手伝いをしたい」 という。

 エーンは教育とは何だろう、自分の思いは独りよがりだったのか、とショックを受ける。
 ところが再赴任した時、チョーンは学校に戻っていたのだ。

 彼がいうには、やはり迎えに来たソーン先生は「勉強すれば人に騙されない漁師になれる」といったのだという。

 エーンはここで、自分の教育観は頭でっかちの理想主義だったことに思い当るのだ。
 子供たちの現実に寄り添う、という教育の原点に思い至ったエーンは、婚約者との間に横たわる食い違いにも気づき、彼とは別の歩みをしようと決心する。

 ソーンとエーンはいつか出会うのだろうか、すれ違ったままでも余韻があって素敵だけど・・・、なんて思いながら映画を見ていたけど、 初めて顔を合わせた2人が互いに名乗り合うラストシーンはやっぱりいい。『めぐり逢えたら』(93) や『(ハル)』(96) を思い出した。

 真っ暗だった夜の水上小学校に明りが灯る光景が、ソーンとエーンを包み込むようにロマンティックだ。
  【◎△×】7

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system