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【 映画雑感 】No.424

ナイトクローラー


2014年  アメリカ  118分

監督
ダン・ギルロイ

出演
ジェイク・ギレンホール
レネ・ルッソ
リズ・アーメッド
ビル・パクストン
ケヴィン・ラーム

   Story
 ロサンゼルスを舞台に、“ナイトクローラー” と呼ばれるフリーランスのニュース・カメラマンが、 刺激的なスクー プ映像を求めて常軌を逸していく様子を描いた社会派サスペンス・ドラマ。

 ロサンゼルスのコソ泥、ルー(ジェイク・ギレンホール)は、 交通事故現場で衝撃的な映像を撮ってはマスコミに売る “ナイトクローラー” と呼ばれる報道パパラッチと遭遇する。

 早速ビデオカメラと警察や消防の無線傍受機を手に入れたルーは、見よう見まねで仕事を開始する。
 薄給で雇った助手リック(リズ・アーメッド)をこき使い、次々にスクープをものにしていく。

 「刺激的な絵が欲しい。被害者は郊外に住む白人の富裕層、犯人は貧困層かマイノリティーが望ましい」というテレビ局の女性ディレクター、 ニーナ(レネ・ルッソ)の求めに応じ、彼の映像は過激さを増していく・・・。


   Review
 最近は交通事故や火事、自然災害、海外ならテロなどの事件が起きた時、 偶々その場に居合わせた人が携帯やスマホで撮った映像で現場の状況を知ることも珍しくはなくなった。
 映像は素人が撮ったものらしく粗く不完全ではあるけれど、それだけに、かえって「その時」「その場」の生々しさをリアルに伝えて迫力がある。

 怖かったろうな、よく撮れたな、と驚きながら見ることが多いけれど、本作を見てふと、これまで考えたこともなかったことが頭に浮かんだ。 それは、映像を提供されたテレビ局は何がしかの謝礼を出しているのだろうか、ということだ。

 勿論、それがいけないということではない。ただ、そこから本作の描くスクープ専門の報道パパラッチまでの距離はそう遠くはない。
 日本にもそういう仕事があるのか私には分からないけれど、仕込みとかヤラセという言葉も浮かび、 本作にフィクションとはいい難いリアリティがあることに気づいて、ちょっとドキリとしてしまったのだ。


 主人公ルーは金網やマンホールの蓋を盗んで転売しては僅かな日銭を稼ぐ小悪党だ。
 演じるジェイク・ギレンホールはもともと目玉の大きい俳優だけど、本作ではそれにギラギラした光を含んで、一種、異様なムードだ。

 やっていることはセコいのに卑屈感は少しもなく、頭の中は妙に理路整然としている。
 金網を持ち込んだ先の工場主に「自分は仕事ができる。ここで働かせてくれ」と熱心に売り込み、「コソ泥はいらない」といわれると怒りもしないであっさり引き下がる。 それもそうだと納得しているフシがある。

 報道パパラッチという仕事のイロハを自分でもまだちゃんと心得ていないくせに、運転手役の助手を面接で雇おうという妙な生真面目さは、 彼のちぐはぐな内面をとてもよく表している。
 ルーはモラルの壊れた現代の混乱の象徴そのもののようだ。

 彼が偶然通りかかった交通事故の現場で報道パパラッチを知り、やりたい仕事が分かった、と一直線にその道に突き進む様子は迫力ががある。
 警察の無線を傍受していち早く事件現場に駆けつけ、撮った映像をテレビ局で高く売りつける駆け引きを身につ け、より過激な映像を手に入れるために、やがては報道カメラマンとしてやってはいけない一線を踏み越えていく。

 映画はアメリカ・ローカル局の視聴率競争がベースになっているけれど、最近はネットの投稿動画が同じ道を辿っているように思える。
 再生回数がそのまま収入につながるために刺激度が増し、過激さが問題になることも珍しくなくなった。

 今のところ (私が知る範囲では) 自作自演のおもしろ・びっくり動画の範囲に収まっているけど、 事件現場の投稿動画でも本作のようなことが起こっていないとはいえない (あるいはこれから先、その可能性がないとはいえない) と思うと、 何がなしゾッとする。

 テレビ局プロデューサーのニーナ、ルーの助手リック、それぞれにくっきりした印象を残すけれど、とりわけ私はリックの人物像が興味深かった。

 助手募集の新聞広告でルーの面接を受けに喫茶店にやってくるリックは、切実な現実そのものを生きている。ホームレスすれすれの暮らしの中で、とにかく仕事がほしい。
 “インターン (研修生)” (と言葉はかっこいいけれど) と称して無給で使おうとするルーにじっくり粘り、「1日30ドル」を引き出した時のホッとした顔、 「ありがとう」と感謝する彼にふっと涙ぐみそうになった。

 ルーにとって人は映像の素材、しかしリックはいくら報道パパラッチのノウハウを身につけても、人は人、モラルを失わない常識がある。 それが彼の悲劇的最期につながっていく。

 リックを犠牲にして平然と仕事の拡大を図るルーは、現代そしてメディアの荒廃を映す鏡になっていると思った。
  【◎△×】7

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