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【 映画雑感 】No.428

そして父になる


2013年  日本  120分

監督
是枝 裕和

出演
福山 雅治、尾野 真千子
リリー・フランキー、真木 よう子
二宮 慶多、黄升 げん
樹木 希林、國村 隼
夏八木 勲、風吹 ジュン

   Story
 『誰も知らない』の是枝裕和監督が、愛情かけて育てた我が子が病院で取り違えられた他人の子供だったと知らされた2組の夫婦を通して、 「家族とは何か」を見つめたドラマ。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞。

 野々宮良多(福山 雅治)は順風満帆の人生を歩む大手建設会社のエリートサラリーマンだ。

 ある日彼のもとに、6年前に妻・みどり(尾野 真千子)が息子・慶多(二宮 慶多)を出産した病院から連絡が入る。 慶多が同じ時に生まれた他人の子供と取り違えられていた、というのだ。

 取り違えられたのは、小さな電器店を営む斎木雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木 よう子)夫婦の息子・琉晴(黄升 げん)だ。

 病院の勧めで両夫婦は子供を交えて顔を合わせ、交流を深め、本来の親のもとで子供を育てる準備を始めるが、それぞれの家族の心は揺らぐ・・・。


   Review
 産院での新生児取り違えは、少し前に実際にそういう事件が報道されて驚いたことがある。
 その事件が起きたのは60年前。片方は富裕、片方は貧困というまったく違う家庭環境で、取り違えが判明した時、つまり当人たちが真相を知った時は、 すでに彼らは人生の大半が過ぎた60代になっていたのだ。

 今は産院も赤ちゃんの足裏に親の名を書いたり、手首にタグを付けたりの防止策を取っているからこういうことは起きない (だろう) と思うけど、 こういう報道に接すると謝罪や損害補償で済む話ではないとつくづく思う。

 本作でも取り違えが起こるのは、裕福なエリートサラリーマンの野々宮家と、貧困とまではいわないけれど小さな電気店を営む斎木家という、対照的な家庭だ。
 彼らの家庭環境の違いは家の中の描写でじつに巧みに伝わってくる。

 野々宮家は瀟洒なマンション住まいだ。モデルルームのように豪華な室内は、整然と片付き美しいけれど、どこか寒々しい。 妻のみどりと一人息子・慶多の静かな暮らし。夫・良多は会社で仕事する姿が描かれる。

 斎木家は狭い部屋に足の踏み場もなくものが散らかり、子供たち (長男・琉晴と弟妹たち) が走り回っている。 子供を叱る妻・ゆかりの声、子供と一緒に風呂に入りふざける夫・雄大など、家の中は活気に満ちて賑やかしい。


 こんな2つの家族の間で、6年前に子供を生んだ病院で取り違えが起きたことが判明する。

 これは (あらかじめストーリーを知っているのに) 胸がぎゅっとなる。
 物静かで愛らしい慶多、活発ではっきり物をいう琉晴、・・・慶多は慶多、琉晴は琉晴、それ以外の何者でもあり得ない。 それぞれの家庭にぴったりで、映画を見ている私でもとてもよその子供とは思えない。

 手塩にかけて育ててきた、目の前にいるこの子が、我が子ではない。そんなことが信じられるだろうか。
 しかし一方で、他家に血のつながった我が子がいるというのだ。

 映画はこうして、赤ちゃん取り違えというモチーフを通して「親子とは何か」と問いかけてくる。
 それは血のつながりか、育てたという事実の積み重ねか・・・。 日本には “氏より育ち” “血は水よりも濃し” という相反することわざがあるけれど、映画はその問題を真っ直ぐに突きつけてくるのだ。

 2つの家族は本来の子供を手元に引き取るための試みを始める。はじめは親子ぐるみの交流。 そして子供だけが本来の親の家に泊まり、やがて子供の「交換」が行われる。

 この時の慶多と琉晴の反応の違いが興味深い。良多に、これからは自分たちを「パパ」「ママ」と呼ぶようにとい われ琉晴は、はっきりと自分の親は斎木夫婦だという意思表示をする。

 慶多は小さな弟妹たちの世話をし、賑やかな斎木家の空気に馴染んでいく。しかし一で、そういう自分に後ろめたさを感じていたのではないかと思う。

 (琉晴にとって雄大とゆかりがそうであるように) 慶多にとって良多とみどりが親であるのは変わらない。 それでも斎木家に居心地のよさを感じ始めている自分がいる。
 それは両親 (良多とみどり) を裏切ることではないだろうか。
 同時に慶多には、斎木家に引き渡されたことで、2人に見捨てられたという寂しさや怒りもあっただろうと思う。

 家出した琉晴を探して良多が斎木家を訪ねてきた時、飛びついていくのかと思ったら、 押入れに中に隠れてしまう慶多にそうした葛藤がリアルに感じられて、胸が痛む。

 エリート人生をまっしぐらに突き進んできた良多に投げられた「父親は替えが効かない」という雄大の言葉は重い。 しかし良多の “父になる” という課題は、同時に家族それぞれの “〇〇になる” という課題でもある。

 親であり、子であり、家族であるとはどういうことなのか。
 さらに良多とみどりの “夫婦関係” や良多とその父との “父と息子の葛藤” など幾重にも家族の問題が提起されて、含みの多い余韻を持って映画は終わる。

 子供とどう向き合っていいのか分からず戸惑う仕事人間の良多に扮する福山雅治、がさつだけれど愛情豊かな雄大に扮したリリー・フランキーがよく、 2人を支える尾野真千子、真木よう子の押さえた演技もいい。
 そして子役2人の演技とも思えぬ自然な佇まいに驚かされた。

  【◎△×】7

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