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【 映画雑感 】No.429

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書


2017年  アメリカ  116分

監督
スティーヴン・スピルバーグ

出演
メリル・ストリープ
トム・ハンクス
マシュー・リス
サラ・ポールソン
ボブ・オデンカーク
ブルース・グリーンウッド

   Story
 政権が隠し続けたベトナム戦争を調査・分析した機密文書の報道を巡り、“報道の自由” を守るために敢然と政府権力と闘ったジャーナリストたちの姿を描く。

 1971年。ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカでは反戦運動が盛り上がりを見せていた。
 そんな中、ニューヨーク・タイムズ紙がベトナム戦争に関する最高機密文書 “ペンタゴン・ペーパーズ” をスクープする。

 アメリカ中が騒然となり、連邦裁判所はニクソン政権の要求で記事の差し止めを命令する。

 夫の急死でキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)が社主を引き継いだワシントン・ポスト紙も、文書を入手する。

 編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は掲載を主張するが、政府の機密を報道して法律問題なれば、株式公開を控えた社の土台は揺らいでしまう。 重い決断がキャサリンに委ねられる・・・。


   Review
 「ウォーターゲート」事件をスクープし、ニクソン大統領失脚の端緒を作ったワシントン・ポストを、 私はずっとニューヨーク・タイムズと並ぶ伝統ある全国紙と思っていた。 ところがじつは、ペンタゴン・ペーパーズの報道を契機に一流紙にのし上がるまでは、単なるローカル紙だったのだそうだ。

 今日 (2018.4.17) の夕刊に、ピュリツァー賞の国内報道部門で、 大統領選でのロシアとトランプ陣営の癒着疑惑 (「ロシアゲート」) を報じたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが選ばれた、と出ていた。
 本作を見た後だけに、両紙のジャーナリスト魂健在なり、とちょっとした感慨が湧いた。

 映画はベトナムの戦闘場面から始まる。
 現地視察したマクナマラ国防長官(ブルース・グリーンウッド)が、同行した軍事アナリストのダン・エルズバーグ(マシュー・リス)に戦況をどう思うか聞く。

 彼が「泥沼化している」と答えると、マクナマラは自分もそう思うといいつつも、アメリカにもどると「戦況は進展している」と逆の発表をする。
 かつての日本の大本営発表を想起し、国や時代が違っても政府のやることは同じだな、と溜め息が出る。

 そんなマクナマラに失望したのか、エルズバーグは自分も執筆に加わったベトナム戦争の経過を詳細に調査・分析した極秘文書を持ち出し、ひそかにコピーを取る。
 冒頭のこの一連の流れはヒリヒリするような緊張感があり、舞台がワシントン・ポストに移った後も通奏低音のように響き続ける。見事な導入部だ。

 今思い返しても、あの当時、アメリカでの反戦運動の高まりは凄かった。
 それだけに、ニューヨーク・タイムズ紙にこの極秘文書が暴露された時、どれほどの衝撃だったか想像にあまりある。メディアの底力を感じさせる出来事だったと思う。

 しかしニクソン政権はすぐにも対抗措置を取る。連邦裁判所に要請し、国家機密保護法に違反するとして記事の差し止め命令を下すのだ。 対象はタイムズ紙だけれど、文書を掲載すれば、他社も法的措置を取られる可能性が高い。


 この少し前、ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリーが、タイムズ紙の敏腕記者ニール・シーハンがしばらく記事を書いていないことが気になり、 アシスタントを忍び込ませて探らせようとする。
 これだけでもタイムズ紙との格の違いは歴然だ。ポスト紙がここからどう一流紙への道をたどっていくのか興味が沸く。

 ところで、ポスト紙が文書を入手する件りが私にはとても面白かった。 記者のバグディキアン(ボブ・オデンカーク)が、内部告発者は元の勤め先、ランド研究所の元同僚エルズバーグだと直感するのだ。

 (盗聴を警戒して、曖昧な言い回しや公衆電話を使うなど、用心に用心を重ねて) エルズバーグの居場所を探り当て、 受け取った文書をダンボール箱に入れて、帰路の飛行機では一座席分の料金を払ってまでも脇に置き・・・、 そうした一々の行動が事の重大さを如実に表わし、緊迫感がある。

 アドバイザーとして雇った弁護士に問い詰められて、バグディキアンが情報源はタイムズ紙と同じだと暗に認めて しまうシーンも迫力がある。
 「そうと承知して掲載すれば、共謀罪に問われる可能性がある」という弁護士の言葉に、 日本でも1年前 (2017.6) に強行採決で共謀罪が成立したことが頭に浮かび、とても他人事(ひとごと)とは思えない。

 『大統領の陰謀』(76) でジェイソン・ロバーズが扮した編集主幹ベン・ブラッドリーは、紳士的な雰囲気と渋い貫禄が素敵だった。
 一方、本作のトム・ハンクスは押しの強い自信家、カウボーイみたいにデスクにドンと脚を乗せる仕草がサマになる。 本物のブラッドリーはきっとどちらも併せ持った人なのだろうと思う。

 社主のキャサリン・グラハムを演じるメリル・ストリープも、当初は役員会ではっきり意見も言えなかったのが、徐々に凛とした佇まいに変貌していく様子がさすが。
 2人が時に激しくぶつかりあいながらも、堅い信頼関係の中で、社運をかけて文書公表に踏み切るのが快い。

 今、日本は森友・加計問題、自衛隊のイラク日報問題など、文書の隠蔽、改ざんが次々明らかになり、驚きや怒りを通り越して、ただただ呆れるばかりだ。
 マスメディアは権力からの圧力(恫喝)に萎縮せず、どこまで真相追求できるのか、正念場にかかっている。 本作が問いかける「報道の自由」は現代日本の課題でもあると痛感させられる。

 映画は、深夜のウォーターゲート・ビルに侵入する男たちのシルエットで終わる。ポスト紙による「ウォーターゲート」事件の幕開け、見事な締めくくりだ。
  【◎△×】8

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