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【 映画雑感 】No.433

万引き家族


2018年  日本  120分

監督
是枝 裕和

出演
リリー・フランキー
安藤 サクラ、樹木 希林
松岡 茉優(まゆ)、城 桧吏(かいり)
佐々木 みゆ、柄本 明

   Story
 『誰も知らない』『そして父になる』などの是枝裕和監督が、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した 人間ドラマ。
 親の年金を不正受給していた家族が逮捕された実際の事件に触発されて作られた。

 高層マンションの谷間にポツンと残された古い平屋。
 ここで暮らすのは、日雇い労働者の治(リリー・フランキー)とクリーニング店で働く妻・信代(安藤 サクラ)、息子・祥太(城 桧吏)、 風俗店でバイトをしている信代の妹・亜紀(松岡 茉優)、そして祖母の初枝(樹木 希林)の一家5人だ。

 貧しいながらも幸せに暮らしているが、じつは一家には秘密があった。暮らしは初枝の年金で支えられ、足りない分は家族の万引きや盗みで補っていたのだ。

 ある夜、スーパーでの万引きを終えた帰り道で、治と祥太は団地の廊下に幼い女の子(佐々木 みゆ)が放置されているのを見る。 寒さに震えているゆりと名乗る女の子を、2人は家に連れて帰るが・・・。


   Review
 21年ぶりにカンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞、と大いに話題になったので、ここに登場する家族に血のつながりないというのは知っていたけど、 まさかここまで赤の他人の寄り集まりだったとはねぇ・・・。

 治と祥太が一見親子のようでそうじゃないらしいのは、2人の会話で比較的早い段階で分かったけど、 治と初枝は親子で、亜紀は治の腹違いの妹で、もちろん治と信代は (戸籍上でも) 夫婦なのだと、映画終盤までずっとそう思っていた。

 全員がここまでバラバラの他人同士となると、ここに醸し出される親密な家族の匂いはいったい何なのだろう。

 一家が集まる居間は物があふれ、足の踏み場もない。
 TVで近頃よく報道される “ゴミ屋敷” を一瞬連想してしまうけれど、そのゴタゴタした様子には “ゴミ屋敷” のような荒廃ではなく、昔懐かしい温かみが漂っている。

 彼らがものを食べるシーンも同様だ。
 カップ麺や店頭で売っている揚げたてのコロッケ、鍋料理、どれもこれも安手でふつうの食べ物ばかり。 立ちのぼる湯気、ズルズルすする音、・・・どこかだらしなくて、でも裸の在りようをまるごと受け入れる大らかさがある。

 ここにいる人たちはそれぞれの事情から寄り集まり、生きるために利用しあっているだけ、というのは簡単だ。
 じっさい一家は初江の年金を当てにして暮らしているし、初江は疑似家族を持つことで老後の不安を紛らわしている。 祥太は万引き (という稼ぎを) することで一家の中に居場所を作り、同じ理由で幼いゆりにも万引きを教える。

 それでもこの一家にはそれだけとはいえない不思議な絆がある。

 実親から虐待を受けてきたらしいゆりを、縁側で信代が後ろからぎゅっと抱きしめる。それを治や祥太がちょっと離れて見守る。 海水浴に出かけて、笑いさざめきながらみなが手をつないで波をジャンプする。それを遠くから初江が穏やかな笑顔で眺める。 ・・・ここにあるのは一家の親密感とほどよい距離感・・・。


 かと思うと、ビルに阻まれて見えない花火を、縁側から (想像しながら) 見上げる時は、ごっちゃり固まってダンゴムシのよう。 賑やかで雑多で、そして寄り添いあう「家族」の枠を超えたつながりが感じられる。

 雑貨店の老店主(柄本 明)に「妹に万引きをさせちゃいけないよ」と諭され、祥太が盗みに疑問を感じ始めたのをきっかけに、一家の暮らしが揺らぎ出す。
 この映画は「家族」とは何かを問うと同時に、少年の成長の物語でもあると思う。

 映画終盤、施設に保護された祥太と治が久しぶりに再会し、釣りを楽しむシーンがある。 その時に祥太に「僕を捨てて逃げようとしたの?」と聞かれた治は素直にそれを認め、「お父さんからおじさんにもどる」と告げる。
 「家族」は解体し、元のただの他人に戻ったのだ。

 祥太がそれをしっかり受け止めたのが分かるのが、バスに乗った祥太を治がどこまでも追いかけるシーンだ。祥太 は帽子を目深にかぶり、グッとこらえて振り向かない。

 治たちとの暮らしから、祥太は人情の温かさと「嘘」はいつか壊れることの両方を学んだのだと思う。 これから祥太はその温かさを滋養にしつつ、偽りではない人生を歩みだすのだろう。

 俳優陣の力量が存分に発揮された映画だった。リリー・フランキーの飄々としてあまりに自然な佇まい。 樹木希林、柄本明のそこにいるだけで人生の年輪を感じさせる存在感。もちろん子役2人もいい。

 中でも信代を演じた安藤サクラの終盤、取調室のシーンは絶品だ。
 女性刑事に厳しい言葉を投げかけられて、信代は大きく顔を手で拭う。何度も何度もそれを繰り返す。拭うたびにあふれた涙で顔がグシャグシャになっていく。 悔しくて、悲しくて、でもそれを奥歯でぐっと噛み殺す。

 そして最後に「どうせ、この人にゃ分かりゃしないよね」というような、ふてた開き直り。
 同時にその奥には本物の母になれなかった深い哀しみがあふれ、なんともいえない余韻を残す。

 現代日本の抱える問題を凝縮し、きれいごとを廃した社会の底辺を描き、そこから普遍的な人間の姿を洞察した映画だと思った。
  【◎△×】8

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