HOME雑感 LIST午後の映画室 TOP




【 映画雑感 】No.437

ボヘミアン・ラプソディ


2018年  イギリス/アメリカ  135分

監督
ブライアン・シンガー

出演
ラミ・マレック
ルーシー・ボイントン
グウィリム・リー
ベン・ハーディ
ジョー・マッゼロ
トム・ホランダー
マイク・マイヤーズ

   Story
 伝説のバンド “クイーン” の誕生からスターダムに上りつめるまでを、リード・ボーカル、フレディ・マーキュリーを軸に描いた音楽映画。 ギタリストのブライアン・メイ、ドラマーのロジャー・テイラーらが音楽プロデューサ ーを務め、28もの楽曲が使われている。

 1970年のロンドン。フレディ(ラミ・マレック)はペルシャ系インド人という出自や容貌に負い目を抱いていた。

 ある日、彼は出入りするライブハウスで、 ギタリストのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラマーのロジャー・テイラー(ベン・ハーディ)らが結成するバンドのボーカルが辞めたことを知り、 自らを売り込む。

 さらに1年後、ベーシストのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)が加わり、バンドはフレディの提案で “クイーン” と名をあらため、次々に大ヒットを生み出す。
 フレディは恋人メアリー(ルーシー・ボイントン)との仲も順調だったが、やがて自らのセクシュアリティに気づいていく・・・。


   Review
 “クイーン” の名前は聞いたことがある。
 「We Will Rock You」と「We Are The Champions」と「I Was Born To Love You」
 この3つはCMに使われているのを聞いたことがある。ほんのワンフレーズだけど、強烈なインパクトがあり、全体はどういうなの曲かな、と思っていた。 クイーンの曲と知ったのは大分後のことだ。

 こんな具合だから、メンバーのことは名前も顔も知らない。それでも思いがけず心に残る映画だった。

 ストーリー的にはリード・ボーカル、フレディ・マーキュリーの伝記のような作りだけれど、 伝統的な価値観の父との確執や自分のセクシュアリティに気づいていく過程と苦悩、またミュージシャンとしての孤独や創造上の葛藤もあっただろうけれど、 そうしたものが全体にさらりと流され、人物像の彫り込みはやや浅い印象だ。

 でも多分、本作はそうしたことよりも、クイーンの楽曲の素晴らしさ、そのものを描きたかったのだろうと思う。
 それはもう、ほんとに掛け値なしに、凄い。クイーンの前身で、フレディが参加する前のバンド “スマイル” の演奏シーンで、まずズズズンときた。

 ロジャー・テイラーのドラムスの迫力、ブライアン・メイのギターの超絶技巧。 フレディが加わってからは、彼のちょっと甲高い独特の声と歌唱に、「これがクイーンなんだ・・・」と全身を委ねるように聞き入った。


 郊外に借りたスタジオに籠もり切って、「ボヘミアン・ラプソディ」を作っていく様子が刺激的で面白い。 新しい音をどうすれば作り出せるか、バトルといっていいほどの激しさでメンバー同士がぶつかり合い、工夫をこらす。

 コインをドラムの上にばらまいて、弾ける音にヒントを得たり、 ロジャーの高音 (庭の鶏が精一杯首を伸ばしたところにドーンと彼の声を重ねるシーンに思わず笑ってしまった) を録音テープの回転数を変えて、 納得のいく音になるまで作り直したり・・・。
 印象的なのが、バンドを離れたフレディがソロ活動に行き詰まり、ライブ・エイドの話が持ち上がって、クイーンに戻る時のことだ。

 自信過剰で傲慢といっていいほどプライドが高かったフレディが、「ごめん」と謝る。 すぐ受け入れるのかと思ったら、ブライアンは「僕らだけで話し合いたいから、ちょっと外してくれ」とフレディを外に出してしまう。
 しょげた顔で室外に出るフレディ。ロジャーが意外そうに「どうして?」と聞く。ブライアン、「何となく」。ロジャー、ジョンはクスッ・・・、私も思わず吹き出した。

 ブライアンも本心は「よく戻った」なんだけど、我がままなフレディにちょっとお灸を据えようかな、という気もある。 そんな茶目っ気にかえってメンバーの温かさを感じて、ほっこりする。


 心に残るといえば、自らのゲイとしてのセクシュアリティを自覚したフレディが恋人メアリーと同居を解消した後、 自宅から見えるところに彼女の部屋を借り、夜、ライトを点けたり消したりして互いに合図し合うシーン。
 性愛の対象ではなくなっても、どれほど彼女を愛しているか、頼りにしているかが切々と伝わってくる。

 メアリーが新しい恋人の子を身ごもったのを知った時の彼の表情も痛ましい。
 フレディにとってメアリーはやはり永遠の恋人なのだとつくづく思う。

 ラストをしめる伝説の (といわれていることも、当然、私は知らなかったけど) ライブ・エイドのシーンが圧巻。 タイトルになっている「ボヘミアン・ラプソディ」をフレディがピアノを弾きながら歌い出す。

    ママー! 僕の最期が来た
    ママを泣かせるつもりはなかったけど
    僕が戻らなくても、生きていってほしい
    みんな、さよなら、僕はもう行かなくては

 そんな歌詞だ。 長い曲なので、まだまだいろんなことを歌詞として言っているけど、フレディの最期について判っているせいか、この曲を作ったのは比較的早い時期なのに、 彼はまるで後のことを予感していたみたいに聞こえて、不覚にも涙が出そうになる。

 エンドロールに流れるクイーンの曲に聞き入り、場内が明るくなるまで席を立つ人はいなかった。久しぶりの音楽映画は満足感いっぱいだった。

  【◎△×】8

▲「上に戻る」



inserted by FC2 system